第六十五話 バーナーの攻防③
「ようこそ、ダイスへ。何名様ですか?」
ウルフは右手で人差し指を立てた。目を左右に向けながら目標物を探す。
「誰かお探しですか?可愛い女の子なら…」
「いや、いい。カウンター空いているか?」
「…ええ、ぜひこちらへどうぞ。」
親切な対応だがどこか胡散臭そうな髭をはやした男は左奥のカウンター席を案内してくれた。ウルフは席へ着くとすぐに「ビールが欲しい」と言い、男を遠ざけた。少しでもいいから周りの情報を早くつかみたかったのだ。突き当り廊下の奥の部屋は関係者以外立ち入り禁止の紙が貼っていた。キンジョーの話によればこの部屋にバーナーとマリ姉が入って行ったと云う。その右横には男女混同の化粧室がある。出されたビールを一杯のみ、ウルフは枝豆を一粒摘まんだ。バーナーと思われる人物はどうやら左後ろのテーブル席で客と楽しそうに話している身の丈高い青年らしい。髪は茶髪で肌は白く、一瞬ホストと思わせるような整った顔立ちをしている。
チャランと玄関が開く音がした。外の雨音が店内へ響く。
「ようこそ、ダイスへ。お嬢ちゃん、いらっしゃい」
ツインテールをしたチャイナドレス風の服を着た女は傘を畳み、傘立の中に入れた。蒸し暑い夏の夜のその異様な服装は周りのお客様からの熱い視線を受けた。
「YAーYA-YA-、また来たね。ファンタジックガール!!」
バーナーは客との会話をやめ、陽気な友達ぶりに話しかけてきた。その後ろから若い女性客の嫉妬の視線が彼の後ろから伝わってくる。
「席空いてる?」その視線を受けながら、アイは得意客のような態度で接した。バーナーも他の客にスター☆アイとは知られてはと思ってか、無言でうなずきカウンター席へと手を向ける。
ウルフと2つ席を空け、バーナーとアイはカウンター席へ横並びに座った。一瞬静まり返った店内も、また笑いの渦へと引き込まれていく。
「私…ロックがいい」アイはどこか沈んだ面持ちで言った。バーナーは自分もと言い、何でも相談乗りますよ的な顔をする。ロックが来るまで二人は何も話さなかった。やがてロックが来て、アイは一口飲み、おもむろに言った。
「悩みがあるの…聞いてもらっていい?
バーナーは神妙な顔で頷いたが、目の奥では少し笑っているように見えた。その肩越にウルフの顔が一瞬笑うのがさらに見えた。