第六十四話 バーナーの攻防②
暗い雨の中では大人数で固まって歩いても違和感がなかった。雨の音が足音を消し、暗がりが顔を分かりにくくしてくれた。人気アイドルスター☆アイだと歩行者にバレることもなく、一行は下町の飲食街の脇道に入った。
居酒屋「ダイス」は大通りに面した場所ではなく、脇道を二、三回入った隠れた場所にあった。居酒屋であっても個人個人が楽しむバーのような雰囲気があった。「ダイス」看板の電光灯は点いていたが、雨で今にも消えそうだった。
「もう、作戦は大丈夫だよな?」先頭を行くウルフは振り返り、みんなの顔を見る。
「大丈夫やで。あんたこそアイちゃんのこと守ってや。」
本間は傘をたたみ、タバコ屋の屋根の下で雨宿りする。
「俺は大丈夫だ。じゃあ行ってくる。アイ、5分後に店に入って来いよ。先に待っている。」
「はい。」
「何かあればキンジョーへ随時連絡していく。頼んだぞ!」ウルフは奇妙に光るダイスの看板目指して歩いて行った。
「さて皆さんにはこのトランシーバーを渡しておきます。ウルフからの情報はリアルタイムで伝えていきますんで。」
「これしかなかったんかい。」本間は渋々受け取る。
「すいません。これしか方法がなくて…。次は皆さんの能力を駆使した情報伝達を考えときますので。」
「こういうこと、これが最後であればいいんだけどね。」マゴはトランシーバーの器械をじろじろと見る。
「そうも言ってられません。チャンネルは『2』で設定してください。ショーくん、マゴくんこれを…」
二人はトランシーバーを受け取った。
「…じゃあ私行ってくるね。」アイは黄色い傘をユラユラとさせながら歩いた。アイ自身もユラユラしているようだ。
「アイちゃん!!大丈夫ですか?」ショーは降りつける雨の音に負けないくらいの声で呼んだ。
「…」大丈夫よと言っていると思うが声が小さくて聞こえなかった。以前の彼女とは違って少し元気がなかった。
元気がないというより何かに悩んでいる感じだった。
「アイちゃん、大丈夫かな…」
その不安な状態は本間にも伝わっていた。珍しく本間が弱気になっていた。