第六十二話 禁忌の通告
「あら、おはよう。」
食卓の間に入るとママは先に朝食を取り、片づけの準備をしていた。クラシック音楽が止まっており、いつもの朝とは少し違う雰囲気が漂う。チワワもお出かけに行っているのだろうか、一匹も見当たらなかった。
「そこに座りなさい。」
優しく包み込むようなママの声。いつもと変わりないはずが何かが違う。その理由は分からないが…悶々とした心でリボンは席に座った。
「今トースト焼いているからね。コーヒー飲む?」
「うん…」
「うん」の後に自分の違和感をママに話したかったが、少し気違いになったと思われても困るので、言葉をぐっとこらえる。
「…最近部活どうなの?忙しいじゃない?」
「うん、秋の美術コンクールでみんな熱気を帯びて頑張っていて…最後の仕上げで忙しいの。」
「そうなの?一度も玲奈の絵見たことないから。一度見ていい?」
「今度見せる。」
そこで一旦会話が途切れる。部活の事はこれ以上追及されたくない。
「…最近ママ心配事があって、これ見て…」
渡されたのは一枚の写真。何気なく見てみると一瞬心が凍りついた。それはウルフと一緒に新しい仲間を探していた時、ウルフがキャバクラ店へ入り、私がその店の前で立っていた瞬間だった。
「これ…どこで?」
「どこでもいいわ。玲奈本当に美術部の部活をしているの?一体何しているの?教えてちょうだい。」
ママはゆっくりと娘の本音を話しやすいように諭すように言った。
「今は言えない。でもいつかは話すから…、私にとって、とても大切な事だから。」
「ママはね。あなたの事が、大切な娘だから心配してるのよ。分かってちょうだい。」
ママはコーヒーカップをテーブルの上に置いた。「コト」っという音が妙に心の中で反芻する。頭が耳が怒られる防御の姿勢になっている。
「とりあえず、今夏休みでしょ。言えないのなら秋の2学期までは自宅謹慎よ。部活友達とは一切会わないし、連絡も禁止。
その行動を少しでも取ったら学校を辞めさせるからね。」
「そんな…」リボンは別れを告げられた悲しい目をした。一生逢えないかも…小学校の孤独な時代が頭の隅々まで広がってくる。
「自業自得よ。ママに本当の事を話せるようになったら、言ってちょうだい。」
ママはコーヒーカップを取り上げ、去って行った。鼻歌を歌い、ご機嫌な様子でステップを踏んでいた。リボンはそのステップをただ眺めていた。