第六十一話 マリ姉とバーナー
「チョンチョンチョン…」
朝小鳥の鳴き声で目が覚めた。とも思ったら自分の携帯の着信音が枕元で鳴っている。時刻は朝9時過ぎ、少し寝すぎたと思い、リボンはパジャマ姿のまま携帯電話へ出た。着信はウルフからだ。
「もしもし~?」
「おうリボンか?朝にすまんな。今起きたところか?」
「そうです~。先生、おはようございます~。」
リボンは半寝の上の空で答える。
「実は伝えたい事があってな。昨日キンジョーが店に下見に行ったら重要な目撃があってな。」
「キンジョー?」
「またうっかりしてしまった。アイのマネージャーの金城君だよ。俺が勝手にキンジョーにあだ名を決めた。」
「そうなんですか~?」
「そうだ。それはさておき、彼が店に入ったらバーナーと親しく話す女性が居たみたいでな。ロングヘアーで赤紫をした髪の色が特徴のな。」
「??」
リボンははたと考えた。どこか見覚えのある特徴。最近それを一生懸命探していたはずだ…
「有力な情報と思い、隠し撮りで写真を撮ってきてくれたんだよ。店は薄暗くて、後ろ姿で分かりにくいが、」
ウルフはそこで一旦話を切った。
「マリ姉と見て間違えなかったよ。その後二人で奥の個室の部屋へ行ったきり、戻ってこなかったみたいだが…」
リボンは言葉に出来ないほど驚いた。一度きりしか会っていないが、自分の姉御的な存在のマリ姉が…慕ってくれた人がスパイだったなんて信じられなかった。なにかの間違いだ。そう信じるしかなかった。
「他のみんなにはもう伝えたよ。リボンが一番慕っていてなかなか言えなくてな。マリ姉のことは忘れろ。」
「…」
「今日はゆっくり身体を休めろよ。」
ウルフは優しく言葉をかけ、ゆっくりと電話を切った。リボンはウルフがそれ以上何も言わない事は分かった。いつかは敵として戦わなければならない、その覚悟を持っておけと優しさの言葉の裏に非情になれという宣告が
リボンの心を切り刻んだ。心が痛くなり胸が苦しくなる。
リボンはフラフラの状態で1階へと階段を下りた。階段を下りる足取りが妙に重かった。