第五十四話 チェックアウト
「本当にちゃんと見たのかよ!!」
マゴは起き上がり、ショーの周りを回った。
「見たよ…見たけどないんだよ。もしかしたらベッドへ潜る時に落としたのかも…」
二人はベッドへ潜るシーンを思い返す。定かではないが、その前にマゴがショーへ携帯の事で注意をしたのも覚えている。
「やばいな…本当にやばい」
マゴは膝を落とし、顔を地面に隠した。今分かった所でどうしようもない事は二人が一番知っていた。
「取りにいくしかないよね。…明日チェックアウト後に…」
「そうだな…笑えねえけどチェックアウトだよな。その携帯がアイちゃんへ渡っていない事を祈るしかないな」
「マゴ…ごめん…」
ショーから涙が一粒一粒地面へと落ちた。布団のシーツが涙で少しずつ濡れ始める。
「なんで謝る必要があるんだよ。それに…まだアイちゃんに携帯が渡ったかわからないだろ。明日を信じようよ」
「ありがとう…ありがとう、マゴ」
ショーはマゴの心の優しさに顔に手を当て泣いた。中学生に入って一番の泣いた日かもしれない。
「気にすんなよ。俺の方こそ感謝してるんだからな。頑張ろうぜ!!」
翌朝、二人は目覚まし時計がなる前に起きた。太陽が昇る前の薄暗闇の中で、ファスナーを閉める音だけが妙に響く。二人は出る前までは一度も話さなかった。2回電車を乗り
継ぎ、改札を出る時にようやくマゴが
「光り輝く勇者の太陽よ。我に力を~」と言った。そのセリフが妙におじいさんっぽくショーは笑いをあげた。
朝9時になり、ホテル受付案内人に部屋番号を言うと、アイちゃんは既にチェックアウトをしていた。
「携帯…携帯ってなかったですか?」
ショーはすがる思いで言った。その思いが伝わったかどうか分からないが受付員は笑顔で「御調べします」と言い、電話をかけた。
客室清掃員に問い合わせをしているのだろうか?
10分後…
「御客様申し訳ございません。客室には何もお客様の私物がなかったとの事で…、携帯のお届けがありましたらすぐにご連絡させて頂きます」
「分かりました」
ショーはマゴの携帯番号を伝え、今日は退散せざる負えなかった。
「ど、どうしよう」
正面玄関へ歩きながら、ショーは呟いた。
「大丈夫さ。仮にアイちゃんが拾ったとして
も、前に泊った人の忘れ物として届けるさ」
マゴはショーの肩をたたいた。本当に横にいてくれるだけで嬉しかった。
ショーはまた少し涙が出そうになり、涙を拭こうとしたが視界に見覚えのある顔が映った。
「あれ…アイちゃんのマネージャーさん!?」