第五話 火災現場
小幸町2丁目の戸建2階の家の火はまだ燃え上がっていた。燃え上がる炎は夏の青い空に暑さを増して大きく広がる。消防隊員と野次馬で現場は混乱しており、火は消えておらず緊迫の消火活動が続いていた。
翔太は支部からのヒーロー依頼でと消防隊員へ告げ、現場へ加わることになった。
「父親がタバコの火の後始末をせず、それが火事となってな…」
隊員の青山は歯を食いしばって言う。同じ父親として許されない状況だ。
「母親と小さい5歳の子供が家の中にいる。ただ玄関の屋根が崩れ、中に入れない状況だ」
家の玄関を見ると、屋根が崩れ、確かに入れる状況ではない。他の箇所も火の手が上がり、立ち往生である。
「早く助け出さないと煙が覆い、息をするのが難しくなって死んでしまう」
突撃して助けたい状況だが、それが叶わぬ現実。青山は一刻も早く消化するしか方法がなかった。
翔太は現場の混乱をこれ以上避けるためにバリケードをつくり、見物人を近付けさせないように努めた。
「これ以上先は非常に危険となりますので、近付かないでください」
知り合いの人が母子の安否を心配する中、これ以上犠牲を増やさないため、翔太は身を尽くした。
「ねえ、お兄ちゃん。ヒロミちゃんは無事なの?」
バリケード近くにいた小さな女の子が心配そうな声で尋ねてきた。おそらく保育園の同じ組の子なんだろう。
「大丈夫だよ。今あっちの大人の人達が懸命に頑張っている。絶対に助かるよ」
翔太はにっこりと笑い、少女を励ました。
「絶対に助かるよね。ヒロミちゃん明日誕生日だから。私プレゼント渡したいから…」
最後は声にならない感じで少女は言った。
翔太は現場を振り返った。燃え上がる炎が自分が来た時とあまり変わらない。
一体どうすればいいんだ。
少女の横をふと見ると、愕然とした目で現場を見る男の顔が映った。
「俺のせいだ…俺のせいだ…」
ぼそぼそと声が聞こえる。
「俺がタバコを吸わなければ…。妻からやめるように言われていたのに…」
今回火災を起こした張本人だろう。この惨劇から妻と子供が助け出されるのを祈るように見つめている。
なんとかしてあげたい。翔太の心はその想いでいっぱいだった。
ご主人を責めるよりも母子を助ける方が優先だ。翔太はふと考えた。
「ご主人様ですね?」翔太はゆっくりと近づいて言った。
男はゆっくりと頷いた。なおも目は現場の方へ向けられている。
「聞きたい事があります。もしかしたら奥様、娘さんを助けれるかもしれません。
タバコはどこで吸われてましたか?」
「…おそらく、キッチンだ。キッチンでしかタバコは吸わなかったから。あぁ俺のせいだ。きっと妻子は二階へ避難しているに違いない。一階は火の海となっているだろうから…」ご主人はおどおどした様子で回答する。
「わかりました。トイレはどこにありますか?」
「トイレ!? トイレは二階にある。ウチの家は特殊で二階にトイレが設備されている」
「ありがとうございました」翔太はその言葉を聞き、火災現場とは真向かいの家へと走り、躊躇せず家の玄関をノックした。