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孤独なヒーロー達  作者: 林 秀明
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第二十八話 工藤家の食卓

「玲奈お嬢様お帰りなさいませ」


執事が玄関前でいつも頭を下げてくれる。

いつからだろう。この光景を当たり前と思ったのは…


「食卓の間でお母様がお待ちです。お食事も冷めてしまいますが故に…」


「わかった。ありがとう」


リボンはメガネを外し、ケースへと閉まった。子供の時からママからはメガネをかけ、清く正しく人から見られるようにと言われてきた。小学校の頃はメガネという心の壁をつくり、いつも人には愛想笑いでごまかし、偽ってきた。


でも中学校になり、ウルフ達と出会ってからは違う。同じメガネでも心の壁はなくなってきた。自分自身に素直になり、仲間と話していた楽しいと思う自分に気がついた。もう少しでメガネを外した本当の自分を見せれるって…


リボンは着替えを済まし食卓の間へと急いだ。食卓の間では大好きなチワワ達が先に晩食を食べている。


「パパは?」リボンは辺りをキョロキョロした。


「パパは今日取締役会議で少し遅くなるって。先に食べましょ。スープが冷めるわ。じぃ音楽をかけてちょうだい。あとワインも忘れずにね」


「かしこまりました。奥様」


じぃと呼ばれる執事はお辞儀をし、部屋を出た。すると間もなく部屋の天井スピーカーからバッハの「G線上のアリア」が聞こえてくる。バイオリンの華やかな音とともにワインがコトンとテーブルへ置かれた。


「ロマネ・コンティとなります」


上流階層だけが味わえる上流階層の味。ママの美味しさをたしなむ姿がまた愛おしい。


「最近遅くなってるじゃないの?部活忙しいの?」

ママはワインを一口飲んだ。


「美術コンクールが近付いていてみんな躍起になって頑張っているの。私もつい熱心になって…」


リボンは家では美術部で部活をしている事になっている。とてもヒーロー部として危険な目に遭っているとは口が裂けても言えない。部活をするのであれば家で習い事をしなさいと説得するだけでも一か月かかったのだ。


「熱心になるのはいいけどあなたの勉学や体調に異変があったらすぐに辞めされるからね。あなたは私の娘だもの。分かってちょうだいね」


「私の娘だもの」はママの口癖だ。確かに私はママの娘だ。でも私はわたしなんだ。私の自由に生きると心の葛藤があったのは小学校高学年からだ。


「分かってるよ。今日は疲れたから寝るね。お休みなさい」


リボンはフォークとナイフを置き、食卓の間を出た。チワワが寄って来たが「よしよし」とするだけで特に遊ぶ気は出なかった。


「あの子少し疲れているね。特に最近は…」ママは心配そうな顔をして思いついた。


「じぃ、あの子を少し見といて下さる? 部活の話を聞くけど、実際に見たことがないのよ。もしいじめでもあっていたら大変だわ。少し監視をお願いしますね」


「かしこまりました。奥様」じぃは深々と礼をした。


「場合によっては学校を辞めさせないとね…」

奥様はワイングラスを時計回りに揺らす。


ワインがグラスにぶつかり波が波を呼ぶ。

それは今後のリボンの人生を示す不穏な波に見えた。



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