第十五話 仲間じゃないか
「何やってんだ。やめろよ!!」
トイレ内に大きな声が響く。再度入り口を見てみると、スポーツ刈りをした少年がこちらを見つめている。
「何だよ。何か文句があるのかよ」狛犬は悪い事をしていない素振りを見せる。
「いじめして楽しいか? その子嫌がってんじゃん!」険しい顔をして狛犬達に近寄る。
「お前には関係ねぇよ」狛犬は手を払い、こっちへ来るなアピールをする。
「…俺達の仲間だ。関係は大いにある」
そう言いスっと入り口から顔を見せたのは時寺先生だった。
「やべ、センコーだ。みんな逃げろ!!」
狛犬達はそう叫び、少年を払いのけ、逃げて行った。時寺先生はそれをじっと眺めているだけで、特に追うような事はしなかった。
「先生、俺はこれで…」
「おう、立石すまんな。助かったよ」
少年はそう言い、運動場へ駆けて行った。
「さてと…」時寺先生はゆっくりと翔太へ近づいた。
「頑張ったな…」先生はそう言い、背中をゆっくりと擦った。
「何で…助けたんですか?」翔太は声にならないほどの大きさで言った。
「あのままほっといてもらったら、あいつら飽きていじめやめるのに…。またあいつらに会った時今回以上にいじめてくるよ…」
「仲間だからだ…」
「えっ!?」
「お前は俺の生徒であり、裏ヒーロー部の仲間だからだ。仲間を助けない奴は仲間ではない。そして仲間を助けるのに理由なんかいらない。」
翔太は声を張り上げて泣いた。先生はその身体をぎゅっと抱きしめる。空手で少しは強くなったかもしれないが、心は昔のままだった。これからはもっと心を強くしていかないといけない。でも今は精一杯泣きたかった。
「合格出来なくてすいません…」
部室へ戻り、翔太は時寺先生にそう告げた。
「偵察をして失敗する所か、逆に目立ってしまいました。もうここには…」
「無事合格だよ」
先生は言葉を制して言う。
「えっ!?」翔太は泣き顔を上げた。顔にはまだ涙の跡が残っている。
「結果としては事を大きくしているので不合格だが…だが実はな、さっきのトイレでこれを見つけてな。リーダーみたいな奴が逃げ去る時に落としたんだ」
先生は机の上にバッジみたいなものを置いた。バッジには黒い目が描かれている。
「これは何ですか?」
「『ブラック・i団』の一員を示すバッジだ。」
「『ブラック・i団』?」翔太は声を大きくして言った。狛犬がその一員だったなんて…。
「あまり大きな声を出すな。その名はここではあまり出したくない。奴らがこの学校にも出没したかと思うと、今後より内密に行動しなくてはいけない。」
翔太はふと考えた。ヒーローの最も悪敵となる悪の組織『ブラック・i団』が学校に出没したという危機感。徐々に自分の周りの環境が変わっていく不安に、昔の平穏な生活が遠く感じられた。
「そうですね。僕は直接見た事はないんですが、支部からの情報メールで仲間が危機に晒されているのを何度か読みました。中には…死んだ人も多くいると…」
「そうだ。ブラック・i団は日々力を増し、住民を危機に陥れ、世界を支配しようとしている。だからこそお前の協力が必要なんだ!! ここの学校にもその危機が迫っている事を今回の偵察で教えてくれた」
「わかりました。この裏ヒーロー部で活動し、みんなを…困っているみんなを…助けます!!」
翔太は拳を強く握りしめ、力強く言った。
「まだ、他のヒーロー部員は来ないんですかね?」翔太はまた少し不安になる。
「そうだな、みんな忙しいからなかなか来れないんだ。でもお前のクラスに一人いるから、毎日会っているはずなんだけどなぁ」
「えっ!?」翔太は再度驚いた。本日何度驚いただろうか。