第百四十一話 掟破りの工場④
「人類キメイラ計画? そんな非現実なことが世の中に現れつつあるの?」
アイには陽平の言葉が信じられなかった。
「君は賢そうだから、これ以上言う必要はないね……もうそろそろ見張りが来る時間だ。もう寝よう、ゲームの事は明日話す」
陽平は燭台の灯を消すと、アイに背を向けて横になった。アイもそれに見習い反対方向の壁に向かって寝た。朝か夜か分からない薄暗い空間の中、通路を歩く靴の音だけが聞こえる。
「コツコツ、、カチャ……」
一定リズムの音が続く中、こちらへと近付いてくるのが分かる。音だけではない、地下水にあるような生ぐさい臭い、湿気……それらを満たした何かの物質が看守窓からこちらを覗いている。
「アイ……アイ……」
囁くような女性の声が聞こえてくる。懐かしい声、親しみのある声、それは自分の心の中で次第に安堵に広がっていく。
「母さんなの!?」
飛び起きた時には何もいなかった。その叫び声を聞いて、陽平の肩がビクっとしたのが分かった。夢だったのか?陽平は寝返りをうってこちらへと向いた。目の周りにはクマができている。
「眠れたか?」陽平は無理やりにこっと笑った。顔が少し引きつっているのがわかる。
「どうしたの? その顔、ひどい」
「何度この日を迎えても寝れないんだ。いつも最期の日になるんじゃないかって」
陽平はゆっくりと起き上がり、アイの正面へと座った。
「恐ろしい脱走ゲームの始まりだ」




