第百四十話 掟破りの工場③
アイは目を丸くした。小柄な眼鏡をかけた青年(おそらく同年代)は臆することなくアイをただ見つめている。強姦する事も、手を差し伸べて助ける事もなく、ただ見つめていた。
「……どういうこと? ここはどこなの?」慎重に言葉を考えながら話した。
「ここは掟破りの工場……の中の牢屋さ。君たちも眠らされる前に名前くらいは聞いただろ?」
「殺されるの? 何されるの? そしてあなたは誰なの?」アイの目の色が変わり始めた。
「ストップ!! ストップ!! 能力を使うのは禁止されてるんだ。全部話すからただ聞いてくれ。僕は君の味方だ」
青年はアイから離れ、壁にもたれかかり、降参のポーズをした。ボロ切れの布で出来た服からは無数の痛々しい傷が見える。
「わかった……陽平くん、話を聞かせて」アイは目の色を元に戻した。
「アンビリバボー、凄い能力だね、君。おっとここで能力の話はNGだ。先を進むとしよう」
陽平はどこから話そうと迷いながら、ゆっくりと話を切った。
「ブラック・ⅰ団の悪事は深刻化している。今まさにヒーローが悪をやっつける報道が何度か報じられているが、それは上辺に過ぎない。本当はブラック・ⅰ団の方が圧倒的に勝っているんだ。彼らは能力のない人間を、心を操って誘導し、仲間に加える他、新しい戦力として研究を進めている事があるんだ」
「研究?」
「そうだ。キマイラ計画と彼らは呼んでいる。それは人の遺伝子を動物に組み込み、獣人間として育てていく。君たちを引き連れたネコの顔と戦車がくっついた者を見たか? あれがそうだ。元々は人間なんだが奴らが遺伝子を操作し、研究し続けているんだ」
「奴らの目的は?」
陽平の顔は青ざめていた。何か自分に危険が感じるようにブルブルと震えている。
「人類キメイラ計画……その主幹として動いているのがこの工場なんだ」




