第百三十九話 掟破りの工場②
暗い洞窟の中をひたすらに走る。後ろを振り向いちゃ駄目だ。闇が何かが襲ってくる。
胸の鼓動が高まる。息が苦しくて、濡れた衣服が重い……でもまだ走れる。
霞んだ視線には昼夜灯の蛍光灯が光っていた。あれは夢だったのか。妙にリアルだった。
アイはゆっくりと頭を持ち上げた。まだ意識がはっきりしないのか頭が重い。そして……
「縛られている」
手首をツタのようなものでぐるぐる巻きにされていた。周りを見渡すとコンクリートでできた牢屋のような所に閉じ込められている。ラッシュの存在はすぐに分かった。遠い所から「くそ」「ぼけ」と荒ぶる関西弁が響いてくる。その存在に安心すると同時に、違和感を感じた。
「誰かいる」
神経が正常に戻ったのか? ふと一安心にした後に後ろの方から人の気配がする。何かが動いたというよりもずっとそこにいて私の事をじっと見つめているという感じである。
アイはその視線が左後方45度くらいにあると分かった。
右足にありったけの力を込め、振り向き様に回し蹴りをした。
「うわっ」
男はアイの蹴りをかわした。襲いかかってくると思ったがニヤニヤとした顔でこう言った。
「お前とならゲームに勝てそうだ」




