第百三十三話 隠された真実-⑤
スカートを手で抑えるほどの余裕はなかった。
左手にはケンジの手を、右手にはボン・ボヤージュの部屋で手に入れた燭台を持っていたため下からの強風がスカートの中を通して全身へと広がる。すべり台は長く、くねくねしていた。左へ行ったり、右へ行ったり、まるで龍に呑みこまれたかのように長く続く食道を降りているようだった。
ケンジは目をつぶりながらも奇声を発していた。恐れているのか楽しんでいるかも分からないような声。
踊りゆくその情緒不安定ぶりに不安を覚え、手を放してここでバイバイしても良かったが、この先どうなるか分からない。
「次で……」ケンジが楽しそうに話す。
「次のカーブで一斉にジャンプしよう。そうすれば水面へと着水できるはずだ。もしこのまますべり台をすべり続ければ、岩壁へと激突してしまう。死と隣り合わせの恐怖こそ、ボンボヤージュが描く子供の楽園だそうだ」
「なぜ、あなたはそこまで知っているの?」
リボンはケンジの予知に恐怖を感じる。
「なぜって僕がそのボンボヤージュの末裔だからさ……今ここでジャンプするんだ!!」
言葉が言い終えると同時にケンジはカンガルーのように両足に力を入れ、力一杯ジャンプをした。リボンも訳がわからず、そのままケンジへと続く。
大岩が水へと転げ落ちるように、大きな音が地下へと響いた。燭台の灯を消さないようにと思ったが、着水の反動で燭台をどこかへ放り投げてしまった。
二人は龍の胃(地下)へと降り立った。
(上はどこだろうか……)
深淵の底のように、水は深く上下左右がどちらか判別がつかない。燭台とそしてケンジの手を放してしまった。ブクブクと泡が吹き出す音が至る所で聞こえる。それはケンジであって、ケンジ以外の何かもいる……
(水がはじけるように冷たい。早く出なければ……)
急ぐと余計に呼吸がしにくくなり、息も詰まっていく。心音が早くなり、恐怖が誇大化する。すると遠くの方から小さな光がこちらへ向かってくるのが見えた。
ゆっくりではあるが、確実に近付く水辺の生き物……提灯をぶらさげたような魚がこんな所にいるはずがない。
リボンは水の中で息をひそめる小魚のように身を縮めた。




