第十三話 偵察
「偵察ですか?」翔太は困った顔をしている。
「そうだ。最近隣の柔道部が我が部を壊そうとしているらしくてな。普通の学校であれば良くある話で問題ないんだが、どうやらそこの柔道部の部員が悪の組織と繋がっているらしい。そこで水飴が偵察をし、真相を突き止めて欲しいんだ」
「僕に出来るでしょうか?」翔太は急に不安になる。
「大丈夫さ。噂を聞いて教えてくれるだけでもいい。何か情報を得たら合格だ。いざとなればトイレの瞬間移動が使えるだろ?」
時寺先生は陽気な顔で笑いながら言った。
翔太は時寺先生と用具置場前で別れ、一人思案に暮れた。先生は陽気な事を言っていたが、自分には荷が重く感じた。偵察って何をしたらいいんだろう?
隣の柔道場から練習が開始したのか威勢のいいかけ声が聞こえてくる。じっとしているだけでは何も変わらないと思い、まずは柔道場の入り口から中を覗いてみた。
中では部員たちが組み手を交わし、技を掛けあっていた。体格のいい者が上級生であり、自分と同じくらいの体格の者がおそらく新入部員だろう。組み手の型や技を見ればすぐに分かった。女性マネージャーが僕に近づき話しかけてきた。
「入部ご希望の方ですか?」にっこりとした顔で聞いてきた。
「あっ、いや、すいません、そうじゃないんです。ただ気になって…」
翔太はしどろもどろに答えた。
「あぁーそうですか…興味があったら来てくださいね」
女性マネージャーは少し残念そうに戻って行った。
翔太は少し悪い事をしたかなと考えた。しかし何か情報を手に入れないといけない。再度奥の方を覗き込むように見ていると、後ろから声がした。
「おい。そこにいると邪魔なんだよ」
翔太は身に覚えのある声にびくっとした。
恐る恐る後ろを振り返ると、そこには昔翔太を苛めた狛犬の姿があった。