第百二十六話 ボン・ボヤージュ二世
「あたし……寝ていたの?」
「ああ、ぐっすりとね。ただうなされていたようだったけど、怖い夢見たの?」
「ううん、変な夢……見た」
リボンはそう答え、ケンジから距離を置こうとしたが、岩壁に阻まれ、あえなく引き返した。
「そうか……話したくないならいいんだ。それよりも玲奈が寝ている間に抜け道を見つけたよ。こっちへ来て」
ケンジは子猿のようにスイスイとしゃがみながら奥へと進んで行った。玲奈も遅れを取らないように後へとついて行く。
「ここ……ここの壁だけなんで黒いんだろうって思ったら、部屋へ通じるドアだったんだ!」
急に少年のような微笑ましい顔でケンジは自慢した。正面に見える壁は他の壁と違い確かに黒い色をしている。
「どうやって開けるの? 無理やり開けたら上の岩が崩れてくるよ。ドアノブも動かさなそうだし」
「大丈夫さ、西洋のドアは頑丈そうに見えるけど、造りは至って単純なんだ。左下を蹴り飛ばすからドアが開いたら先に入って、僕を引き入れてくれ」
リボンは静かに頷き、ケンジの右横で進入出来る態勢をとった。ケンジは一呼吸し、まずはドアにゆっくりと足をつける。
「コン」という音が響き、どこかで岩が崩れる音がした。二人は一瞬身震いしたが、心を落ち着かせ、音が鳴り止む瞬間を待った。
音が止んだ。
「行くぞ!!」
ケンジは歯を食いしばり、勢いよくドアを蹴り上げた。ドアは一瞬前後へ少し動いたが、開かなかった。またどこかで岩が崩れる音がする。
「なんの!!」
再度ケンジはドアを蹴った。一瞬ドアが揺れた後止まったように見えたが、ゆっくりとドアが開いていった。
「早く、先に行け!!」
リボンは半開きのドアを体当たりで押し、全開させた。するとケンジの頭上で岩が今にも遊びたいようにくすぶっているのが見える。
リボンはシャボン玉を作り、ケンジの頭上にシャボン玉のクッションをつくった。岩がシャボン玉へ支えられている間、ケンジの両腕を取り、一気に部屋へと引き入れた。
「助かった……」ケンジが言葉を言い終えると同時にシャボン玉は潰れ、岩が崩れ落ちてきた。一瞬にして瓦礫の山となり戻れなくなってしまった。
「もう戻れないね」リボンはぽつりと呟く。
「ああ、そうだね。でもここからがまた新しい始まりだ」
ケンジは何かの主人公を演じているのだろうか。冒険者のような立ち振る舞いでじっと瓦礫の山を見つめていた。




