第百二十五話 夢現(ゆめうつつ)
「あたしの事ですか?」
リボンは目を細めて不思議なものを見るように眺めた。どう見ても猫の顔に戦車の胴体がくっついている。
「そうよ、ち(き)みよ。困っている子を助けるのが、私達『パッソン』の役目。いつでもどこでも私達は側にいる」
猫車は歌を歌うかのように前へ後ろへ車輪を揺らす。車輪と地面が擦れるキュっという音が、母性をくすぐらせるようで愛おしい。
「どうしたらここから抜け出せるんですか?」
「そうだわねー、地下水脈を抜けるしかないかしら?」
描車は急におばちゃん口調で喋り出す。
「地下……水脈?」
「そうよ。昔ここに住んでいた男爵が一度資金難にあってね。この辺は鉱物資源が豊富で自分も鉱物を掘り当てるといって、掘り当てたのが、水脈だってわけ。当時は貧富の差が激しかったから、雇われた人間は皆男爵を咎め、男爵は自殺しちゃったけどね」
「そうなんですか? どこからその地下水脈に行けるんですか?」
「そこが問題なのよね。あたいは道は知ってるけど、道が狭すぎてちみは入れないかもねー。いっそちみもあたいのように誇り高く、小さくなればいいのにね。あっ駄目か。人間が小さくなるなんて誰も許してくれない。それよりも……」
猫車はベラベラと喋り続けていたが、ふと問題が解決しないと、別の話題へ移りまた話し続けた。
あげくの果てには「ふむ」と自分が納得したかのように元来た道を戻ろうとした。
「結局どうしたらいいの?」
リボンはもう会えないと思い、焦って呼び止めた。
「あたいの足跡を辿ってみたらいいわよ。それよりも水脈には男爵の霊が出るから気をつけて」
待ってと言った瞬間、耳元で何かが囁く声がした。その声はだんだんと大きくなり、頭の中に響いてくる。
「大丈夫?」ケンジが横向きになって側にいた。不安な顔から安堵の顔へと徐々に変化していく。
「うなされていたよ。顔色も悪いし、本当に大丈夫かい?」
リボンは軽く一息呼吸をし、額の汗を拭った。夢だったのだ。




