第百二十四話 違和感の青年―④
雨が降ってきたのだろうか。水しぶきの音が壁を伝って中へと響く。
あれから何時間が経ったのだろうか。
青年は身体を猫のように丸く縮ませ、寝息を立てている。先ほどの好奇心な姿勢から一変、急にエンジンが切れたように静まりかえっている。
(ケンジは一体何者なのか?)
ただの世間知らずの裕福に育った年。それだけで話をするならば疑問符はない。
しかし彼の時折不安にさせる質問や言葉遣いに気を張られずにはいられない。
彼の目の奥に潜む魔物が「純粋」という言葉でカモフラージュしているかと思うと、とても寝れる状態ではなかった。
(なんとかしなくちゃ)
あせる気持ちが心を落ち着かせられずにリボンは何度も寝返りをうった。
「ウィーン、カタカタカタ……」
遠くの方から機械仕掛けのロボットが動き、行進する音が聞こえる。それはゆっくりと一定のリズムに乗ってこちらへと向かってくるようだ。
リボンはゆっくりと目を開いた。ぼやけた視界の中、何か動物の顔らしきものが映ってくる。ゆっくりとこちらへ近付くその顔は……猫だ。
猫が近付いてくるがどうもなにかおかしい。それ(猫)には前足、後足はなくしっぽもない。顔、首は猫だが、胴体はおもちゃの戦車になっている。
猫車はリボンから1メートル離れて止まり、こう囁いた。
「起きなさい、旅人よ。あたいが道案内しましょ」
声も似合わない小学四年生の女の子の声がリボンの耳にはっきりと聞こえた。




