第百二十二話 違和感の青年―②
「わたしはだいじょうぶ。はやくここからにげて」
宙に浮かぶシャボン玉の文字はゆらゆらと揺れながら、一つ一つ役目を終えたように割れていった。
「生きているの? リボン、返事をして!」
マゴは叫んだが、リボンの返事はなかった。
「おそらく動けない状態であるのと、声を出したら岩が崩壊する危険があるかもしれん。だから返事をしないのだろう」
「何で助けなかったの? 時間を止めれたのに……」
マゴは泣きそうな顔でウルフを見つけた。
「時間を止めたとしても動けるのは俺だけだ。そして止めたとしても助ける距離ではなかった。それだけだ」
ウルフはマゴの顔から残りの集団に目を向けた。皆疲労困憊で次にどうするか指示を待っているような姿勢でいる。
「俺達が生きて帰って救助を呼ぶんだ。ショーも何か巻き込まれたか遅すぎる。これ以上仲間を危険に晒すことは許されない」
「……わかったよ。ただこれだけ渡させて」
マゴは作戦前にキンジョーから渡された秘密の紙をくしゃくしゃに丸め、岩と岩の隙間に投げつけた。
「何の紙だ?」
「わかんない。キンジョーがリボンの身に危険が迫ったら渡せって。誰にも見せるなって言われて見ていないよ」
「……」
「リボンー、先に行って待ってるからなー。絶対に、絶対に助けに戻るからなー!!」
さらなる岩石が上から落ち始め、ウルフ一向はまた走りだした。
途中足場が崩れ、蛇のような道があった時でもお互いが手に取り合い、道を切り抜けてきた。照明の光が消え入りそうになり、もうここまでかと誰もが思った時果たして出口の扉は見つかった。
「早く、ここから離れろ!!」
最後のお年寄りが出るまで、ウルフは予断を許す事なく声を張り上げた。最後の人と共にウルフはみんなが待機している城の裏池へと駆け寄った。
「ゴゴゴゴ」
空から隕石が落ちたような轟音と共に二つの塔をなした古城は崩れ落ちていった。それはあまりにも無残な姿で誰もが逃げ遅れていたらと思うと身震いがした。
「これからどうする?」
線香花火が散ったように城は崩れ、音は止んだ。マゴはぽつりとつぶやき、そっとウルフの右手を握った。




