第百二十一話 違和感の青年
「まだか、まだなのか?」
何度同じ道を来たのだろうか。ウルフは崩壊していく城に焦りを覚えながら、出口へと向かった。ガブリエルはいなくなったのか、嘲笑する声とドラゴンの雄叫びはいつしか聞こえなくなっていた。
「ウルフ! みんなヘトヘトになっているよ。まだなの?」
マゴは後ろを振り返り、集団の顔を見た。生死を彷徨う集団の顔には覇気がなく、今にも倒れそうな予兆を兆している。
「わかっている! キンジョーとの連絡が取れず困ってるんだ。今はもう闇雲に探すしかない!」
ウルフは間髪入れず走り続けた。自分が止まってしまっては希望の道は途絶え、全滅すると考えたからである。
「ちょっと待って!!」
リボンの声で二人は後ろを振り返った。すると最後尾で誰かが地面にうずくまっているのが見えた。
「どうしたの?」リボンはすぐさま駆け付け、気弱な青年に声をかけた。
「……ないんだ」
「えっ!?」
「走れないんだ。ガラスの破片で足を怪我してしまって、今まで我慢していたが、もう無理なんだ」
青年は痛々しそうな顔をし、右足を見せた。足裏には無数のガラスの破片が刺さっており、所々に血が滴る。
「何て無茶を……誰かタオルは持っていない?」
リボンは他の集団に声をかけたが、皆いい顔をする者はいなかった。
(何故この青年は素足で走っていたのだろう?)
リボンは自分のハンケチを取り出し、青年の足を保護しようとした。その時突然大地が怒り出し、地面が膨れ上がったかと思うと頭上から岩壁が落ちてきた。
「危ない!!」マゴがそう叫んだの束の間、一瞬にして目の前に岩が積み重なり、リボンと気弱な青年は閉じ込められてしまった。
「リボンーーー!!」マゴは膝から崩れ落ち、地面を二度ほど叩きつけた。自分の力の無さを恨んだ。
「落ち着け!! まだリボンが死んだとはいえない。あれを見ろ!!」
崩れ落ちた岩の隙間からシャボン玉が数個現われ、お互いが結びつけ合い文字へと形を変えていった。




