第百二十話 誘拐
「マリ姉さん、そんな……」
ショーは自分の存在が消え去っていくような、悲しい気持ちと不安にかられた。
「そんな事させない! ショーとの決着は今ここでつける!」
亮は炎の剣を構え、重心を低くした。
「ショーを殺した事にしておけばいいんじゃない?」マリ姉は髪を撫でながら、余裕の顔をした。
「どういう事です?」
「亮、あなたがショーをこの体育館で殺した。そう上席へ報告すればいいのよ。死体は焼死したってね」
「そんな事すぐにばれる。奴らは影にひそむハンターだ。殺戮者だ。今のこの話しも聞かれてるかもしれない」
「心配はないわ。何か匂うでしょ?」
亮は注意深く、鼻を動かした。木の焦げる臭いに混じって、バラの匂いが辺りに漂っている。
「バラの匂いで辺りを探知してるの。大丈夫誰も聞いていないわ」
「そうであっても……バルに知られれば例の地下工場に……」
「あなたがどう感じかよりも、その話を聞いてバルがどう感じるかよ。話を嘘のように話すのではなく、真実のように話して真実にすればいい。あなたはあなたの高みに近づくため、私は野望のためにショーを殺した事にすればいいのよ」
「………」
燃える木の臭いが一層強くなった気がした。建物が崩壊する音がより大きくなっていくと共に、外から至る所でサイレンが鳴り響いている。
「時間……ないわね。どうする?」マリ姉はゆっくりとした物言いをした。いつの間にかショーも横に立っている。
「わかりました……この事は誰にも口外しない事を誓って下さい。不審な対応によってはあなたも殺さないといけません」
「大丈夫よ。心の乗り換えは激しいけど、そういった約束は絶対守るわ。ショー何か言わなくてもいいの?」
ショーはじっと亮の目を見つめた。亮もショーの目をじっと見つめている。昔と変わらず透き通った迷いのない目だ。
「亮……何があったか分からないけど、君を絶対に連れ戻すからね」
「……何度も言う。俺とは関わるな。次に会った時はお前の最後だ。じゃあな」
「じゃあな」という言葉がすごく寂しいような響きがした。亮はまだ何か迷いがあるのだろうか。
マリ姉は二人の顔を再度見て、天に無数のバラを放った。マリ姉とショーの身体にバラが覆い隠し、床へと落ちた瞬間、二人の身体は消え去っていた。
消火活動が始まったか、窓には水が四方からかけられていた。
亮はしばらくの間それをじっと眺めていた。




