第百十九話 どっちの味方?
パチパチパチと柱が焼き付ける音と臭いがより濃くなってくる。
オーブンレンジのような密封に閉じ込められた暑さにショーは何度か眩暈がした。その暑さの中に冷凍庫の冷気のような寒さを感じさせる女の人が立っていた。
「何だ、あなたですか。何の用です?」
亮は火炎入道に攻撃を止めさせ、頭に降りかかる火の粉を払った。
「あなたに用はないのよ。あるのは後ろのマットの坊や」
甘い大人びた声にショーはどこか見覚えがあるが、後ろ姿のため顔が見えない。
「そこに居るのは勝手ですが、ショーとの覚悟の戦いに水を差さないでください」
「差してはいないわよ。ただ私はこの子を預かりに来ただけ」
「誰の命令です? そんな指示は聞いていないよ」
「私の意志よ。なんだかんだいってもう疲れちゃったのよね。だから抜け出そーと思っちゃって」
女は拍子抜けな声で言い、髪留めを右手で外した。髪がばさっと開いた瞬間、ショーの心の奥のもやもやが吹き飛んだ。
「マリ……姉さん」
「久しぶりねショー。あなたの親友ってホント苦労をかける奴が多いわね。もっと大人しい奴はいないの?」
「話を逸らさないでくれ。あなたはいつも自分勝手で、そして臆病だ。だから誰にも信用されない」
「知ってるわよ。面倒くさい事から逃げて、自分も他人も信用しないの。でもこれだけは言える。私は強いわよ」
「臆病な奴に強い奴はいないです。そこをどいてください」
亮は小さな炎の鳥をマリ姉へと放った。マリ姉は目に見えない早さでその鳥を手で追い払った。
「あなたと戦いたくないのよ。私もあなたと戦っても意味がない。属性は違うけど同じ団でしょ? 見逃してくれない?」
「ショーをどうするつもりです?」
亮は小さな鳥を腕や肩の上に乗せ、攻撃の様子を窺っている。
「亮、あなたはショーを殺したいのよね? 私もそれに近い感じよ。連れ去って、いじめたい……」
マリ姉はショーの方へ向き、はにかんだ笑顔を見せた。目の奥底にある見えない恐怖とモナリザのような微笑がショーの身体を震わせた。




