第百十六話 炎武VSひよっこ
「ショーさんすいませんでした」
ショーが移動した横の個室トイレから一人の男がぶつぶつと呟いている。
「皆さんすいませんでした。私は友を失くしました」
言葉と言葉の間にすすり泣きが入る。男は一度鼻をすすり、気を落ち着かせようとした。
「これで……いいんですよね? マリ姉さん」
ゆっくりとドアを開け、出てきた男は泣きじゃくった顔のキンジョーだった。
一瞬ドキっとした。それは亮に会った事ではない。
キンジョーが裏切った事に対する悲しみの痛みであった。
「炎武双派斬!!」
亮は両手に気を溜め、二本の炎の剣を創り出した。その剣でまるで円舞のように柱を、壁を斬っていく。
いつしか周りは炎の壁となり、トイレに通ずるドアも塞がれていた。ショーは怖さよりもその舞いの美しさに何も出来なかった。
「久しぶりの……」亮は一度そこで言葉を切った。
「久しぶりの……小学校の体育館だろ? 少し体育館のバスケットゴールが小さく見えるが俺達が成長した証しだ。あの薄汚いマットででんぐり返しを何度もしたよな。足首を捻ったお前を保健室へおぶってやったけ」
「何で……またお前なんだよ。何でこの場所なんだよ。一番会いたくない奴に会うなんて」
ショーはゆっくりと空手の構えをする。もう何を言っても無駄だとわかっているからだ。左ポケットに入っている焼け石は暴れんばかりに熱くなっている。
「さすがだな……もう覚悟ができているなんて。やっぱりお前は強いよ。ヒーローだ」
亮は二本の剣を重ね、一本の巨大な剣にした。炎の剣先がまるで生きているかのように何度も揺らめく。
「待っててやるよ。これでお前を倒しても俺の名がすたる。取って来いよ。武器を……」
ショーは亮の方を見ながらゆっくりと後ずさりをし、体育倉庫へと入った。
このままでは一瞬で切り倒されると感じていた。
何か武器はないのか……棒でも、鉄板でもいい。
「こ、これは……!!」
ショーの鼓動はさらに高まった。




