第百十四話 行き場のない脱出
「ヤッホー、カーニバルのお時間ですよ~」
聡明な天使の歌声とは程遠い爆発音が辺りに響く。招待客は地獄に近い悲鳴をあげていた。
「何が民の安全は確保出来ているだ。余計騒ぎを大きくしているだけじゃないか」
マゴは天井から崩れ落ちる瓦礫を右へ左へと避けた。リボンが瓦礫に当りそうな時は時折後ろから支えてやった。
「ああ見えても俺の兄さんなんだ。勘弁してやってくれ」
ウルフは申し訳なさそうな顔をした。
「えっ!? そうなんですか? 一体どんなタイミングで?」
三人は一斉にウルフへ顔を向ける。
「タイミングは関係ないだろ。ちゃんと血縁のある兄さんだよ。その話は聞かなかった事にしてくれ」
「そう言われても……」
三人は困った顔をしていると次の通路を横切る一部の集団が見えた。
「何をしてるんだ? 早く逃げないと城が崩壊するぞ!」ウルフはけたたましい声で叫んだ。
「そうは言っても正面の玄関が瓦礫で埋まって出れないんだ! だからこうして出口を探している!」
気弱な青年は寝そべった髪を左右に振った。紺色に着こなしたスーツも今はボロボロになっている。
「ショー、頼みがある。俺達はあの集団と一緒に出口を探すから、お前はムーブ・ザ・ベンチでヒーロー本部へと行き、救急部隊をよこしてくれ。ここからじゃ連絡がとれん。頼む!」
「わかりました。先に行って助けを呼んで行きます。みんなも気をつけて」
ショーは涙顔になり、一度顔を拭いた。
「そんな顔で見つめないで。私達は大丈夫よ。ショーこそ気をつけてね。ヒーロー部でまた会いましょ」
リボンの温かい手がゆっくりと離れていった。天井が崩れる中とてもゆっくりと時間に感じられた。
(どうしよう……)
リボン達の姿はもう見えなくなった。場内の照明は消えかけ、外の月明かりの方が一瞬明るいように感じられる。
ショーは全力で走った。何者から逃げるように。それは「誰か」という物体では「死」という無であった。
「ショーさん、こちらです。早く来てください」
玄関ホール間近で聞き覚えのある声がショーの足を止めた。
急いで声の方へ顔を向けるとそこには声と違う者が立っていた。
天狗の二人組だ。




