第百十二話 バルの電話
ジリリリリリリと響く昔の電話。玉座付近からけたたましい音が静寂な場内に響いた。電話が切れたかと思うと、誰が話しているのが聞こえる、内容は分からない。
「スパイダー様、電話です。バル様です」
どこにいたか分からない手下がスパイダーへ告げ口をする。
「何か!? 忙しい時に……あいつはいつでも規則、ルールとうるさいんだよ」
手下を払いのけ、スパイダーの足音が遠のいていくのが分かる。以前顔前にヘルスパイダーが近付いているかと思うとそんな事はどうでもよかった。
「もしもし、お電話変わりました~スパイダーです!」
1オクターブ高い大きな声がはっきりと聞こえた。
「何かありましたか!? あっ、はいはい」電話の相手は上司だろうか。丁寧な対応が続く。
「地下へ落としたあの二人ですね。すいません、いつも手続きをしてから入れろと言っていたのに。申し訳ございません」
「そんな面倒くさいとは一切思っておりません。今後気をつけます。はい、すいません」
電話はガシャンと切られた。
「子供め、特別の召喚士だからってえらそうに言いおって。今に見ておけよ」
物々言いながらスパイダーの足音が近づいていくる。その音は今にもショー達に触れる位置まで近付いた。
「もう目と鼻の先ですよ。2~3センチ前かな? あなた達の命はあと2~3センチです。あなた達を殺し、私はまた出世階段を上るんだ」
リボンの頬に冷たい感触が走った。スパイダーは頬をゆっくりと撫でている。
「こんな可愛い子なのに哀れですね。仲間になっていれば今頃別館で盛大なパーティーをしていただろうに。自分を恨むのではなく、ヒーロー達を……時寺先生を恨みなさい」
スパイダーは四人の中央前に戻り、ピアノ椅子に腰かけた。
「あと1分だよ」
嬉しそうなその声に腹が立つというより、何も出来ない虚無感が走る。柱時計の針が進む音が自分の命を削っていく。
(時間よ、止まってくれ)
ウルフは脳裏の中で精一杯祈りを捧げた。自分の命と将来へ羽ばたく命の為に、渾身の力を心へ込めた。
針が止まった。秒針の音もしなくなった。
その数秒後けたたましい獣の声が場内の壁を壊れんばかり揺らした。




