第百十一話 孤独
森林深く閉ざされた闇を歩く僕。足元を見ると履き慣れたスニーカーが自分のそばにあることが唯一の救いだ。
青色の側面に黄色のラインがきれいにデザインされている。
自分はなんで生まれたのだろう?
どうしてここで死なないといけないの?
暗闇の中で自問自答する僕。もう歩くのが疲れて大木へと腰を掛けた。ざらざらとした木の表面と横に流れる小さな小川の音が生の実感を与えてくれる。もう感じる事は出来ないんだ。死ってどんな感じなんだろ。
周りに何度呼びかけても誰も来ない。帰ってくるのは無音の孤独さとカサカサと迫る死の恐怖。
「やっぱり自分は一人なんだ……」
小川を背に大木へと声をかける。水面に自分の顔を見る事が出来なかった。自分という存在が消された瞬間。
否定する事が出来ず、誰かにすがるしかなかった。人ではない誰かに……
「人間って弱い生き物なんだな」
ふと苛められた小学校三年生の事を思い出す。狛犬達に馬鹿にされた苦しい日々。心がとても痛かった。誰も助けてくれなかった。なんで自分だけ苦しい目にあうのと思った。
小川の水の流れる音が止まった。いつしか風も吹いていない。
虫の声さえも聞こえなくなった。
でも今思う。本当に苦しいのはもっと生きたいのに生きる事が出来ない事だ。
誰にも悟られず、無念の想いで散っていく命。木の葉が地面に落ちるように自分の命も当たり前のように散っていくんだ。
もう色さえ判別する事が出来ない。手が痺れ、目が溶けていきそうだ。
「みんなゴメンね。僕もう無理だよ……」
大木へと寄りかかり、息が止まるのを静かに待つ。いずれ自分の腐敗も自然となって今後も生き続けるだろう。
「あと5分だ」
脳内に響く嫌な声。死はもうそこへと迫っていた。




