第百十話 死と孤独と猛毒蜘蛛
「もう時期に日が変わります。その瞬間あなた達は別の世界で暮らしていることでしょう」
スパイダーは調教鞭を右手でペシペシと叩いている。攻撃をしてこない余裕のにんまり笑顔を見ていると、自分達の状況がよく読み込めた。
「もう命乞いをしてもタイムオーバーですよ。世の中決して甘くありません。だからこそ私も生き延べ得たのです」
天井付近の方から何やらカサカサと耳を澄ませると聞こえるぐらいの音がする。それは一瞬止まったか思うとまた動く音がした。
「くそ、動けん! 一体何をするつもりだ!?」ウルフは力一杯身体を動かしたが、影が縛られ、為す術もなかった。
「無駄ですよ。影の力に勝てた者はいません。安心してください。もうすぐ楽になれますから」
スパイダーは右手をパチンと鳴らした。その瞬間頭上から蜘蛛が垂れ下がってきて、顔前へと止まった。
「わぁ!!」マゴ達は驚きで頭を後ろへ倒したかったが、動けなかった。
「この蜘蛛は……蜘蛛はね。猛毒をもっていて、刺されるとものの1分で死ぬんだ。通称『ヘルスパイダー』とも言われてて、恐れられているが動きが遅いんだよ。でも今はそれも関係ないけどね」
不気味な声がまたも響き渡る。スパイダーはウルフ達に近付き、目隠しと口を封じた。
「次に指を鳴らす時、蜘蛛が動き、君達を殺しにかかる。その時間は約10分。目に見えない死の恐怖の中、君達は死んでいくんだ」
スパイダーは調教鞭を置き、右へ左へと歩いた。
「結局生まれゆく時も死んでいく時も人は一人なのだ。何か足掻こうとしても結局は同じ。孤独を知っていると言ったが死を間近にして雄弁をたらすことが出来るか?」
スパイダーの歩く足音は止まった。ちょうど四人の前の中央に位置する。
「人は結局孤独なのだよ!」
静かな場内にこれほどにない指の鳴らす音がきれいに響いた。




