第百九話 スパイダーの力-②
光沢な騎士の甲冑に無数の蜘蛛の糸がかかる。地面に敷かれた高級そうな薄紅色の絨毯も今や糸まみれとなっている。玉座に座っていた男の顔には余裕の顔がない。傷だらけの身体と汗だけが淡く光っていた。
「なかなかしぶといですねー。一人では何にも出来ないくせに」スパイダーは強気の皮肉を言った。
「孤独を味わったこそ自分の事が良くわかる。それを知った同士だからこそ繋がりが……力が強いんだ!」
ショーはシャボン玉の壁を盾に糸を避けながら、スパイダーの右腹に鋭いパンチを繰り出した。ヒットはしなかったものの彼には焦りをもたらす攻撃となった。
「もう後がないぞ! いさぎよく降参したらどうだ」
ウルフはスパイダーの前に立ち、見下ろすような目で見た。
「いやはや、時寺先生。あなたはそうやっていつでも態度で人に圧力をかける。だから信頼がないのですよ」
「ご忠告ありがとう。でも今はそういう問題ではない。許しを請うとしたら今だぞ」
「………」
「どうなんだ?」
「カラミティー・スパイダ・ワールド発動!!」
スパイダーの言葉とともに突如地面に落ちていた糸が黒く光ったか思うと、ウルフ達は全身に悪寒を感じた。すると耳鳴りがし、手が脚が、頭でさえも動かなくなり、思うように出来ない。まるで何かに縛り付けられている感じだ。
「何……をし……た」ウルフは唯一動かせる口だけを重々しくいった。
「影で人の行動を封じたのですよ。私の能力は影を操る能力。糸は影を流し込むだけの道具に過ぎない。糸を通じてあなた達を影で縛っているのですよ」
「こんな事が……うかつだった」
マゴは両腕を伸ばそうとするがプルプル震えるだけで同じ格好のままになる。
「機を窺っていた。蜘蛛が獲物を確実に捕獲するようにじっくりとじわじわと。あなた達の打撃を抑えれば私は勝利すると思っていましたからね」
どこから持ち出した分からない調教の鞭を振りながら、スパイダーは横一列に並ぶ四人の前に立った。
「さぁ、これからが本番ですよ。孤独を味わった皆さんが、どう恐怖に立ち向かっていくか。楽しみです」
不気味な笑い声が場内に響いた。いつしか月明かりは消えており、場内に橙色の燭台に火が灯されている。周りは依然として暗く、数メートル先も見えない。
牢獄に閉じ込まれた感覚だった。




