第一話 べんきマン
流れゆく洪水の音。
荒ぶる波が静まり返った後、ゆっくりと落ち着いた波が僕の方へと目を向ける。
「おーい、誰か大きい方してる奴がいるぞー」
トイレ内に響き渡る友達の声。他の友達がぞろぞろとトイレへ集まってくる。
「ホントだー。くせぇーなー。誰がしてるんだ?」
「3組の水飴みたいだぜ。あいつが困った顔をしながらこのトイレへ急いで行くのを目撃した者がいるぜ」
「なるほど、どれ一度確認してみるか」
僕は隠れる場所がないのに、布団の中に隠れるように身体全身を縮めた。時に便器の冷たい所におしりが当り、びくっと元の位置へと急いで戻す。
リーダーみたいな奴が前へ出てきて、トイレのドアをめがけて助走をつける。タイミングよくジャンプし、ドアへとしがみついた。
その時中にいた僕はリーダー(狛犬)と目が合った。
「はは、ホントだー。水飴がいるぜー。トイレでうんこしているぞー」
大きな声を上げ、狛犬はトイレを出て、廊下を走りながら、その言葉を連呼する。嫌というぐらい繰り返し何度も。
クラス中のみんながその言葉に聞き耳を立て、笑い合い、囃し立てる。
僕はその日から「べんきマン」と言われた。