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蛍樹  作者: AKIRA
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二楽章 旅立ち

―2楽章― 〜旅立ち〜

「パタン」パーティ会場の扉が閉まる気配を背中で感じる。

「あの時の・・・」扉を背にし知美の言葉が頭の中を駆け巡る・・・。

雲一つ無い、快晴の青空を見上げたのち、少し重たい足取りの一歩を踏み出した。

とっさに知美に「空港」と言い会場を後にしたが、僕に今、帰る場所など本当はもう無い。歩いている途中、会場の扉が開いた感じがして、瞬時に振り返る。


突如視界が急に暗くなり、会場の扉を覆い隠す様に僕の目の前に、一人の老人が立ちはだかる。辺りは一瞬で暗闇とかした。

「そろそろ時間じゃ・・・。どうする若者よ? 現に淡く光っておる、ほれごらんなさい。過去の時より現在に持ってきた、そのものが残りわずかな時を告げておる、あまり時間がないぞい」。そう言いながら胸元を指差す。僕は服の中からその物を取り出し視線をチェーンに通した指輪へと落とした。右手の手のひらへ指輪をそっと乗せる。青白い光りを放っている。


「さぁ、それをどうする。彼女に渡すか?これがたぶん、最後のチャンスじゃ、彼女に渡す他に、おぬしが転生する方法はないのじゃ。辛いじゃろうが・・・」悲しそうな表情で僕を見つめる。

多分、この老人は誰よりも一番僕の心を理解してくれていれるのだろう。

そう、彼と供に、過去を一緒に旅したのだから・・・。



「夏美綺麗〜。ほら見て由佳。夏美お姉ちゃん綺麗だね〜」少し離れた場所から、由佳を抱き、知美は夏美を見つめていた。由佳は夏美の存在に気が付いたらしく、手足をバタつかせて夏美の元に行こうとする。

「だめ、由佳〜。夏美お姉ちゃんのせっかくのウェヂングドレスが、誰かさんのよだれで、ぐちょぐちょになっちゃうから〜」

「だぁ〜」とただ一言発して、どうも理解してないらしく、手の中で動き回る。

二人のやりとりに夏美が気付き微笑みながら、近づいてきた。

「ごめんね〜。夏美〜。うるさいでしょこの子、どうも光るものに目がないらしくて・・・誰に似たんだか・・・(笑)」首にかかっている、装飾豊かなダイヤのネックレスに目を奪われる。


「本当はウェディングドレス着る予定じゃ無かったんだけど、智一がうるさくって」

「似合ってる、似合ってる、美人がより引き立ってるわよ」

「ありがと。さぁ由佳ちゃん、おいで」抱え上げようと両手を前に出す。

「駄目、駄目、せっかくの衣装が、汚れちゃうから、ほら、ほら夏美、智一君呼んでるわよ」

由佳を手にしているため顎で合図する。

「今度は誰に挨拶するのやら・・・。挨拶ばかりで、疲れました」すこしうなだれながら呟く。

「さてと、ご主人様の面子を守りに行くとしますか〜。ごめんね知美ゆっくり話せなくて、また後で来るから待ってて」そう告げ、夏美が歩きにくそうに、横を通り過ぎて行く。




その刹那、夏美が横を通り過ぎるイメージと潤一郎が重なりとっさに声を上げた。

「あ〜っ、大事な事忘れてた、夏美。さっき、潤一郎君来てたわよ」




「うそ・・・」と振り返りながらただ一言だけ、静かに夏美が囁いた。





「彼女に渡し、転生を選びます」老人を見つめながら囁いた。

「うむ・・・」一言述べた後。

老人が、背広の上着の内ポケットから分厚い懐中時計を取り出す。変わった形の時計で、一段目の文字盤には、現在の『現』の文字が刻まれている。二段目は過去の『過』、そして最後は未来の『未』3つの時計が重なって一つの時計だと、いつだったか説明を受けた。



『現』の時計を老人が読み上げる。

「後12分30秒、29…28、時間がない、暗闇を解くぞい」

「お願いします」告げたと同時に暗闇と老人の姿が消えた。



あの時、『レラ=シロス』の曲で夏美に出会い、夏美と時を共有するうち、僕はいつしか夏美を受け入れる事が出来なくなった・・・。僕は僕であり、夏美は夏美、個々固有の人格であり、『僕の歩むべき人生の道と、夏美の歩むべき人生の道はあまりにもかけ離れて違うのではないかと、いつしか考える様になった・・・』

若かりし考えだったのかもしれない、考えたのちに夏美に一つの選択を述べる結果となってしまった・・・。


人の愛情の温もり、人の支えのありがたさ、そして何より、人を愛する純粋な気持ち。全てを踏みにじむ、酷い選択だったのかも知れない。



過去を改めて旅した上で、今、伝えようと思う。あの時の別れの決断を謝り・・・。

幸せな時間をありがとうと・・・。そして幸せになるようにと・・・。


暗く長いトンネルを抜けた後、僕の目の前に老人が立っていた、そして僕にこう告げたんだ。

「若者よ、残念ながら、若き命の灯火がたった今消え去った」とただ一言。

それに対し自分の考えを力強く率直に述べた。

「言っている事が良く理解出来ない、長いトンネルを抜けてきただけで、なぜ死なないといけない? 現にこうして貴方と話しているし・・・、それに僕にはまだやり残した事がある、理解出来るように話して欲しい」両手に力を入れる。


「どうして、人という生き物は、生への執着が強い生き物なのであろうか」老人が叫ぶ。

「生への執着?当たり前だ! 僕はまだ生きている。現にこうして貴方と話している、貴方も生きているのではないのですか?」。怒りで声が震える。

「私はとうに人ではない、若者よ」

「人ではない? 何を言っているのか分かりません、では私の目に居る老人は誰なのですか?」

「私の姿が見えるのか? 若者よ」

「えぇ、はっきりと、老人の貴方の姿が見えます」断言する。

すると老人はこう言った。目にうっすらと涙を浮かべながら。


「わしを知っている者を長らく探しておったようじゃ。わしが長い年月ここに、おったのは・・・そうじゃ!!。わしの名を知るものを探しておったのじゃ。もう会えないものと、しかしこうして会うことが出来た、この世界では時の流れにより、記憶、想い出、全てを忘れてしまう悲しい世界、むろん自分が昔は人間だった事も、どんな姿であったのかも、忘れてしまう」と静かに語り、そして頬を、一筋の涙が流れた・・・。

「さぁわしの名を教えてくれ」老人が叫ぶ。

僕は無言で首を振った。そして一言「分からないと」静かに老人に告げた。


僕は自分の身に何が起こったのか、どうしてここに居るのか?

そして目の前の老人は一体誰なのか?もちろん会った事もなければ知るよしもない。

とにかく、分からないことだらけで、自然に眉間にしわが寄っていた。

考えることが多すぎて上手く言葉に出来ず、戸惑っている僕を無視し、老人は涙を拭った後。静かに語り始めた。

「思い出せないと言うならば仕方無い、わしを思い出すまで着いて行くのみじゃ、この世界の仕組みから、まずは覚えている限り順番に話そう。分からぬことばかりで、頭が混乱していると思うが。これから、お主がやるべき事を話そう。今生きておる者『現世(現在)』と呼ばれる所におるものに、自分が生きたということを認識してもらわないと、転生つまりは生まれ変わることはできぬ。それがこの世界の決め事じゃ」


とっさに言葉が出た。

「ちょっと待ってよ、良く分からない? 僕は死んだという自覚もないし、どうやって自分自身死んだのかも分からない。これは夢で、目が覚めるといつもの朝がやってくるはず、そうに決まってる」自分自身に言い聞かせ、老人を見る。


しかし老人は何も答えることはなく、ただ先を続ける。

「この世界の仕組みや決め事、誰が決めたかはとうに忘れてしもうたわい。この世界にしばらく居ると自分の名も、何もかもいつかは忘れてしまう、現にわしは名も忘れ、なぜここで、お前さんを待っていたのかも記憶しておらん。『現世(現在)』において誰かに認識してもらわなければ、わしのように迷い人となり、彷徨の運命を辿ることとなるのじゃ」



老人の言葉をゆっくりと理解しようと少し時間をくれるように老人に頼んだ。

考えながら、いつしか言葉を発していた。

「つまり『僕』は死んでしまってて、転生に必要なことは『僕が生きたということを相手に認識させること』それしか方法は無い、ということ」



「そうじゃ、簡単に言うと、生きている者への最初で最後のメッセージじゃ。

そのメッセージとは言葉ではない、一つだけ自分の物を、限られた時間内に相手に渡さなければならない・・・。それが転生の合図であり、この世界の掟である。その物を渡さなければ、転生することは無論無理である。誰に何を渡したいかは良く考えることじゃ」


そう言うと老人は背広の内ポケットから分厚い時計を取り出した。

「ラスト・プレゼント・・・」。文字が頭で形成され、言葉となり無意識に、ぼそりと僕の口をつく、老人の耳には僕の言葉は届いていないようであり、勝手に話を続ける。

「『過去』。『現在』。そして『未来』。この3種類で『時』は作られる。『過去』とは、つまり一度過ぎ去った『時』の象徴。この『過』の時計により、行きたいと願う『時』の指定を行い、『過去』から『現在』へと一つだけ自分の物を探す旅へ旅立たなければならない。

そして『過去』の時を歩む中で、お主が最後に自分自身の死を見届けた時、この時計『現在』と『未来』の時が同時に動き出す」そう静かに告げ。『現在』と『未来』の時計を僕に見せた、その時計には針等は付いておらず『現』と『未』の文字だけが文字盤に描かれてあった。

そして老人は『過』の時計つまりは『過去』へと行けるという時計を僕に手渡した。

「『現在』と『未来』に関しては、そのうち語るとしよう、この3種類の時計はお主が生きた『時』の証じゃ。本当は1人で時の歩みへと旅立たねばならぬが、わしの名前をまだ思い出しておらんことと、わしの姿が見えることに非常に興味がある、よってお主の時の歩みにわしも同行するとしよう」

そして老人は『現』と『未』の時計を再び背広のポケットに入れた。


全ての話しが納得できないまま、夢だと思って、試しに日付を夏美に始めて出会った学園祭に合わせてみようと思った。夢でもいいからもう一度だけでも逢えるならば・・・。

どうして日付を覚えていたかって?

それは出会ったその日が彼女の誕生日だったから・・・。


そして僕は『過去』という時を歩む旅人となった、老人と共に。


夏美に早く逢いたいという気持ちと裏腹に、もし本当に自分が死んでしまっていたらという恐怖の気持と葛藤しつつ・・・。    時計の日付を合わせた。


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