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ヴォルフラムとステラは屋敷を一通り見て回ったあと、一緒に夕食を摂っていた。
「随分、食べられるようになったな。…王都と違って、素朴な料理ばかりだろう」
「素材の味がしっかり出ていて、新鮮なものばかりだと分かります。
…その、いつもずっと吐き気があったのですが、今はスッキリしていて食事が美味しいです」
ステラはここ、二、三日で少しずつ食べられる量が増え、初日の婚姻パーティのご馳走の倍近く食べられるようになっていた。
…元が食べられなさすぎたともいえるが、確実に体が食べ物を受け入れ始めていた。
メインの豚肉のソテーは、ステラ好みにさっぱり食べられるようにと、シェフがレモンソースを添えてくれていた。
よく噛みしめて、柔らかいがしっかりとした肉の歯ごたえとジューシーさを堪能する。
屋敷の庭で育ったハーブが練り込まれた自家製パンを、皿に残ったソースをつけて口に入れる。
もぐもぐと咀嚼するステラをヴォルフラムは、じっと観察しつつ、食べなれた夕食を口にする。
ステラにとっての毒である魔力を浴びながら、美味しく食事を取るのは難しいだろうと、アレルゲンから開放されたステラを見て目を細める。
…もっと美味しいものが、この世には沢山あることを教えてやりたい。
デザートを食べ終わった頃、ヴォルフラムがそっと口を開いた。
「辺鄙な田舎だけど、探せばコース料理とか高級な食材の店もある。…体調がいいなら、明日行ってみるか?」
「…とても素敵なお誘いなのですけれど、高級な魔物のお肉はたまにお腹を壊してしまうことがあって…。
…今思えば拒絶反応だったかもしれません」
「そうなのか…?」
「ポーションを飲むようになってからは、控えていたので今はどうなるかは分からないのですが」
ステラの体調について本人もまだ把握しきれていないことがあると、ヴォルフラムは専任の医者を探すべきかと思案する。
考え込むヴォルフラムに、ステラはおずおずと提案した。
「…あの!宜しかったら近くの市街地に毛糸を見に行きたいです」
「毛糸…?買い物なら、服とか宝石とか見に行ってもいいんだが…」
「まぁ、ヴォルフラム様はお優しいんですね。
でも今年の羊毛の出来が素晴らしいと聞いて、是非見てみたいです」
「…俺はステラが行きたいところなら、どこでも構わないが。ただの田舎の商店街だぞ…?」
近所の店にちょっと顔を出す約束をしただけで、心底嬉しそうにするステラに、ヴォルフラムは驚きを隠せない。
「明日のお出かけ、楽しみにしていますね」
「お、おう…」
ヴォルフラムは何とか返事をするだけで精一杯だった。
***
寝室で寝台に寝転がるヴォルフラム。
久しぶりの寝具の上での睡眠は、いつもは泥のように眠るのに、なかなか睡魔がこなかった。
貴族の女たちは、こぞって好きな物はほぼ同じ。
王都での最先端のトレンドを追うこと、次に高級な服や宝石、そして魅力的な結婚相手が話のネタだった。
アイゼンベルク辺境伯の当主の座について、早8年。
そもそも社交界から切り離された特別枠のヴォルフラムは、何年か前になかなか見つからない嫁探しのため、山が落ち着いている季節に何度か王都に顔を出していた。
その際、軍服のような衣装を身につけているのは騎士ばかり。他の男性貴族たちはヒラヒラのフリルシャツに、宝石のついたタイをつけ大変煌びやかで、体は皆細身だった。
騎士でさえも魔法で体力強化をしてしまえば筋力を必要以上に鍛えることはなく、スラッとした男たちが多かった。
さすが格上相手に、顔を見合せて嫌味を行ってくるものは少なかったが、影でコソコソ指をさされて噂されていたのは気付いていた。
『あれが噂の“魔力なし”辺境伯爵?』
『魔力ではなく筋肉で物を言わせて、…なんて野蛮な』
『“ギフト”なんておこがましい。もはや“呪い”でしょう?』
国軍の抱える騎士たちは、膨大な魔力を持って攻撃魔法を駆使し、武力を誇示している。
一方、アイゼンベルク山に生息する魔物は、その魔法攻撃に耐性があった。
主に魔物の持つスキル、体力回復や魔力攻撃を跳ね返す反射などに特化した魔物たちだった。
つまり筋力を持ってして物理的に破壊した方が、確実に討伐できた。
人離れした逞しい筋力とずば抜けた回復力を身につけると魔力は消えていた。いつしかそれが“ギフト”と呼ばれるようになっていった。
…ヴォルフラムは、代々のアイゼンベルク辺境伯当主がこの“魔力なし”なのは、自然に順応し生き残るための進化だとさえ思っていた。
体の細い王都の男性貴族や騎士たちを見下したいわけではない。ただ、同じ国を守るという点で、適材適所、生きる世界が違うだけのことだった。
ただ次世代へ継ぐため嫁を探しているだけなのに、魔力の多さが貴族の指標ともされるせいか、ああも疎まれるという経験は、ヴォルフラムとって辛い現実だった。
煌びやかで、危険とは縁もゆかりも無い貴族のご令嬢たちに、辺境の地で共に領地を守ろうなど声をかけられたものではなかった。
…そもそもこうした魔力云々の前に、見た目から怖がられていた。
ヴォルフラムはステラが居る寝室のドアをじっと見つめる。
そういえば確かにステラも初めて顔を合わせた時には、一瞬驚いているようにも見えた。
…あの時は自分もステラの細さに驚いていたため、気にならなかったが、自分のような男に嫁ぐ以外の方法がないステラに恐怖心はなかったのだろうか。
「…いかん。8つも年下のステラの方が、妻としての覚悟があるじゃねぇか」
ステラの現状をよく理解した上で、利害が一致した契約結婚のようなつもりでいたヴォルフラム。
夫としてステラとどう関係を深めていくかについては、全く考えていなかった。
婚姻を受け入れる際に考えていた筋書きはこうだった。
体質のこともあったし、そもそも怖がられるなら、白い結婚のまま養子を取り、ヴォルフラムは跡取りを手に入れる。
ステラは田舎暮らしが強いられるが、拒絶反応を起こさず健康を取り戻し、長く生きられる。…勿論不自由の少ないように、援助はするつもりだった。
だが、ステラは初夜を受け入れようとした。
ヴォルフラムとの夫婦関係を望んでいる。
それを分かっていながら優しく寝かしつけておいて、飛び込んできた兵士の討伐要請に深く考えずに、いつも通り意気揚々と乗り出し、三日も屋敷に取り残したのだ。
…ヴォルフラムはまさに自己嫌悪していた。
明日、きちんとステラに謝ろうと心に決めていた。
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