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案内された部屋は、洗練された調度品の夫人室だった。
ステラは辺境伯家に歓迎されていることを感じてほっとため息をついた。
どっと長旅の疲れが出ていて、ズキズキと痛む頭を押さえながら、そっとドレスを脱いだ。
この後は夕食まで休んでいていいと言われていた。
部屋着に着替え終わる頃、侍女のハンナがホットミルクを手に部屋に来てくれた。
先程言っていた昼食代わりの温かい飲み物だろうかと、そっと口を付ける。食欲はなかったが、心遣いが嬉しかった。
コクリと一口飲み込むと、自然な甘さのミルクの濃厚な喉越し。なのに後味はスッキリしていて、とても美味しかった。
「…ん、美味しい…!」
「ステラ様、どうやら領内で畜産が盛んだそうです。そのミルクはとれたてだそうですよ」
「そうなの…。ね、ハンナも頂いた?本当に美味しいわ」
味見に先に頂いちゃいました、とハンナはすぐに侍女に美味しいものを分け与えようとする自分の主人にお茶目に答えた。
小さい頃から世話を見てきたハンナは、普段食に関心のないステラがホットミルクの味を褒め、ちびちびとではあるが、何度も口に運ぶ様子に内心驚いていた。
とはいえ長時間の移動で疲れているはずのステラを、輿入れの日の夜は長いため、休ませるべく寝室に寝かせた。
***
再び夕食の席で、顔を合わせたステラとヴォルフラム。
「体調は無理をしないでいい。食べられるだけ食べてくれ」
「お気遣い感謝致します」
食が細いステラに先に気配りをしてくれるヴォルフラム。
前菜やスープなどほんの少しずつ口に運んでいく。
…とても美味しかったが、ステラは久しぶりのフルコースに胃が重たくなっていくのを感じていた。
どうして自分の体はこうも弱々しいのだろう。
周りの人に迷惑をかけてばかりで、何も返せない。これじゃ辺境伯でも厄介者になってしまう。
ステラはとても後ろ向きな気持ちに苛まれていたが、必死で表情だけは変えないように顔を引き締めていた。
「ステラ嬢、…本当に無理はしなくていいんだ。
今夜の食事は婚姻のお祝いみたいなものなんだ。気楽に過ごしてくれ」
「…はい、とても美味しいです。先程いただいたホットミルクですが、あんなに濃厚なのにあっさりした後味で…。初めて飲みました」
「そうか!うちの名産なんだ。チーズやヨーグルトもとても美味いぞ。口にあって良かった」
ヴォルフラムはお世辞かとも思ったが、ステラの侍女が後ろで何度か頷くのをみて、ホッと安堵しつつ、領内の物を褒められて悪い気はしなかった。
ガツガツとステラの倍のスピードで3倍以上の食事をもりもり食すヴォルフラムの姿に、ステラは目を見張る。
…あんなに大きいんですもの、沢山食べられるんでしょう。
とても美味しいのに、小さく用意してくれたメインのお肉すら、どうしても喉を通らず残してしまった。
ステラはとても申し訳なく思うと同時に惨めな気持ちになっていた。
「…ヴォルフラム様。
妻として少しでもお役に立てるように頑張ります。厄介者を引き受けさせてしまって、…申し訳ありません」
つい、ネガティブな言葉が出てしまったステラを一瞥したヴォルフラム。
ステラの残した皿を給仕のメイドから奪い取るように手に取り、皿の肉を一口で口に放り込んでもぐもぐと咀嚼する。
その様子に呆気に取られるステラ。
後ろに控えていた執事のヘクターは、マナーの悪さに眉間にしわを寄せる。
「厄介者なんて思っていない。俺の方こそ、こんなにガサツで無骨な男だ。……本当に、俺でいいのか?」
「ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」
ステラが深刻そうな顔で深く頭を下げるのをみて、苦笑するヴォルフラム。小さくため息をついて、グイッと首元のボタンを外して姿勢を崩す。
「今日から正式に夫婦になるんだ。もっと気楽に行こう。しばらくは療養してくれればいい。な!ステラ」
「はい。ありがとうございます」
「体調が回復したら、どんどん食べられるようになるさ。もっと体に肉をつけてもらわないとな。
是非、ケツのでかい良い女になってくれ!」
ステラは、ぽかんとした顔でヴォルフラムを見つめた。
執事のヘクターが鬼の形相でヴォルフラムを睨みつける。
ヴォルフラムにしてみれば、部下の兵士たちとの男同士の会話でするような、気軽な冗談のつもりだった。
ガハハ、と豪快に笑う屋敷の主人についに執事が口を出す。
「ヴォルフラム様!…なんて口の利き方を…!」
「…なんだよ。冗談だよ、冗談!」
「貴方にはデリカシーがないんですか!
そもそも行儀が悪すぎます!前を閉めなさい!姿勢を正す!」
ふふ、とつい声を出して笑ってしまったステラだった。
ヴォルフラムはやっと表情が明るくなったステラを見て、満足そうにしていた。
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