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屋敷の主であるヴォルフラムが帰宅し、初めての晩餐。
領主自ら狩ってきた鹿肉の一番柔らかい背肉を使った厚切りのローストの赤ワインベリーソースがけは絶品だった。
表面はカリッと、中は美しいロゼ色の柔らかい赤身は噛むほどに旨みが溶けだした。
王都で食べる魔物の希少肉に負けず劣らぬ味に、アルベルトやエリックは驚きを隠せなかった。
「美味しい!バルト、このベリーのジャムって、もしかして…?」
「はい。去年の秋にステラ様と一緒に作ったジャムを使いました。赤ワインはアイゼンベルクで作られたものです」
「いや、想像以上だ」
「狩りたての鹿ってこんなに柔らかいんだね」
シェフの料理を、賛美し合う三人にバルトは鼻高々に胸を張る。
満更でもなさそうなヴォルフラムがそっと口を開いた。
「…口にあってよかった。
今日は短時間で屋敷内の魔道具の改良、感謝する。
お二人は貴族というより技術者なんでしょう。驚いた 」
実際に仕込み作業まで見学したエリックが、遠慮もなく厨房の魔道コンロの古臭さにケチをつけ出したのだ。
あっという間に改良型の魔道コンロに組み換えてしまった。
アルベルトも料理を待つ間に、屋敷の中の水回りや給湯器などにも点検を始めた。屋敷内の旧式の魔道具を数時間で“魔石電池”の魔道具に変えてしまった。
庭師のヨルグはその様子を食い入るように見学し、次第に二人の助手として屋敷内をついて回っていた。
「手紙でもステラのために、魔道具を改良版に変えたいと聞いていましたから。
慣れた屋敷での生活もありますし、少しずつ変えていけばいいかと思っていました。
…妹のために決断頂きありがたく思っています」
「まさかステラが、魔石に触れるのも良くないとは思っていなかったなぁ」
アルベルトとエリックが顔を見合わせて頷く。
ステラは自分の『魔力アレルギー』で家族たちに手間をかけさせている現状に、少し俯く。
そんなステラの機微に、真っ先に反応したのはエリックだった。
「ステラ、そんな顔しないで。
頑張った兄ちゃんを褒めてよ。父さんにも沢山褒められてこいって言われてきたんだ」
「…勿論です…!感謝しても、しきれないくらいです!
お兄様達のお陰で、厳しい寒さの冬も快適に過ごせたんです」
「あぁ。あの給湯器は画期的だった。領民向けの施設に設置検討している。…設備がとにかく高いのが難点だな」
ヴォルフラムが机の下で、ステラの手を握って落ち着かせていた。
「やっぱり冬は寒かった?」
「ずっと雪が降っていて、雪かきしないと外に出られないくらい積もるのです。
屋敷の中も暖炉に火を入れても冷えるので、暖かい飲み物が欠かせませんでした」
「魔道ケトルは使い物になったようだな。あれは俺の案なんだ」
「…アルベルトお兄様も、本当にありがとうございます」
アルベルトがわざと誇らしそうに、ステラを励ますような言葉に嬉しそうに顔を綻ばせる。
ヴォルフラムもそんなステラの表情にほっとしていた。
エリックはそんな仲睦まじいヴォルフラムとステラの姿が、少しだけ悔しかった。
…ワイルドで強くて、ステラに優しくて。ご飯も美味しい。
なんだよ、こんなの完璧な夫じゃん。オレだってステラのために色々やって来たんだ。
妹の健康をずっと祈っていたエリック。
ステラの体調不良の原因が『魔力アレルギー』だと聞いた頃から、隣国で集められるだけの情報を集めて改良版魔道具の核の部分を開発していた。
田舎に住むしか道が残されていなかったステラのために、少しでも選択肢を増やそうと王都内の魔道具の改良を推し進めた。
勿論、ステラの回復は喜ばしいが、自分の手で何とかしてやりたかった。
エリックは、もし虐げられているなら、今回の訪問でステラを掻っ攫って、王都の改良が進むまで一緒に田舎に住もうと本気で思っていた。
エリックは、普段は自由奔放で気の抜けた話し方ばかりしているが、かなり優秀な技術者だった。
「ねぇ、ステラ。
王都内の施設や上級家庭に広まった、例の最新式魔道具の危険性を国が認めて注意喚起を出したんだ。冬の間に“魔石電池”の増産と改良キットの流通が始まってる」
「…そうなんですか?」
急にエリックが真剣な目でじっとステラを見て、真面目な話をするので、ヴォルフラムと繋いでいた手をそっと離した。
その改良キットを必要分持ってきていたアルベルトとエリックは、あっという間に屋敷内の魔道具を改良版に変更していた。
実際に王都内の全ての魔道具を改良するのは、人手と時間がかなりかかると予測されていた。
「浸透してから五、六十年経っているから、数が数なだけに今すぐ安全になるわけじゃないんだけど…。
きっと五年もすれば、ステラも王都で住んでも支障はないと思うよ」
「まぁ。まだ甘い見通しだけど、確かに。
ポーションさえ飲んでいれば、たまに実家に帰るくらいは出来ると思う」
エリックのまるで『いつでも帰ってきていい』と示唆するような言葉に、アルベルトが補足する。
ステラはそれを聞いて、輿入れに旅立つ直前に父親から言われた言葉を思い出していた。
『今直ぐにとは言わないが、いつかお前が王都に遊びに来れるような環境を、俺とアルベルトで作る』
ほんの一年足らずで偉業を成し遂げてしまった、王都にいる両親の顔を思い出す。ステラは胸が熱くなっていた。胸の前でぎゅっと拳を作って握り締めた。
「本当に…。ありがとうございます…!」
「……」
ヴォルフラムは感慨深そうにお礼の言葉を絞り出すステラを、難しい顔で見つめていた。
***
用意されたエリックの客室を訪れたアルベルト。
眉間にシワを寄せて、腕を組んでエリックを見下ろしている。
「なんだ、さっきのあの言い方」
「…何がー?」
「辺境伯爵がやけに険しい顔をしていたぞ。わざと何か焚き付けたな?」
「別にぃー?ただの報告だよ」
間違ったことは何も言ってないでしょ、とソファに座ってもたれ掛かるエリック。
じろりとアルベルトが無言で睨みつけていると、不意にエリックがあー!と大きな声を上げて伸びをした。
「あぁそうだよ!わざと意地悪言ったんだよ!だってオレたちだってかなり頑張ったじゃん!」
「…シスコンもいい加減にしとけよ。
ステラはもう辺境伯夫人だ。フラフラと王都で過ごす日々なんて、もう来ないことは本人が一番分かってる」
「オレが幸せにしたかったのに…」
ステラがアイゼンベルク領へ輿入れの際に、シスコンのエリックが留学で不在で別れの挨拶すらろくに出来なかった。
そのためお互い会いたいだろうと一緒に連れてきたことを、少し後悔していたアルベルト。
…勿論、一週間もかけて婚姻生活がどうか見に来ている自分こそ、シスコンであることには変わりはない。
自分のことは棚に上げて、エリックの暴走を停めようとするアルベルトだった。
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