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ディナーのメインは、シェフのバルトの最高傑作の春キャベツを使ったロールキャベツだった。
アイゼンベルクの厳しい冬を越え、爆発的に成長した柔らかくも甘いキャベツ。中のミンチは脂の乗ったイノシシ肉でハーブと甘い玉ねぎで臭みはなく、肉の旨みと甘みが濃縮されていた。
アルベルトとエリックが予想以上の美味しさに舌を巻いた。
次の日の朝、焼きたての自家製パンと絞りたてのミルクとグラノーラ。ふわふわのオムレツとステラも手伝ったというトマトソースをかけて頂いた。
馬車で広大なアイゼンベルク領内を回っていくと、農作業や畜産に励む領民たちが、ステラの乗った馬車を見て手を振ったり会釈する。
その姿に兄たちはステラが、アイゼンベルクの領民にも受け入れられ馴染んでいることを実感していた。
羊を見に馬車から出ると、広大な草原の中を元気に走り回る羊たちは、すっかり伸びた毛がモッコモコに膨れ上がっていた。
「羊だー!すごい毛が膨れてて気持ちよさそう」
「来週末に、羊の毛刈りの春祭りがあるそうです。誰が一番早く綺麗に刈れるか勝負するんだとか」
「そうか。ステラが輿入れしたのは、その後だったな」
…まだ一年経たずに、ここまで。
アルベルトは春の陽気な日差しの中で、自然に溢れた領内でのびのび暮らすステラが眩しく見えた。
健康を取り戻し、凛々しく辺境伯夫人として責務を果たす姿に、親心のようなものを感じて胸がいっぱいになっていた。
風が吹き付け、ステラの被っていた帽子が飛ぶ。
エリックがケラケラ笑いながら走って取りに行くと、坂になった草むらで滑ってコロリと一回転した。
ステラとアルベルトが慌てて駆け寄ると、天を仰いで仰向けになって寝そべるエリックをのぞき込む。
「エリックお兄様…!大丈夫ですか?」
「滑っちゃった!原っぱ、気持ちいいね!
ステラはここの生活に随分慣れたみたいだけど。
…今の暮らしは、幸せ?」
「…ベルシュタイン家での、家族みんなとの暮らしも幸せでした。
でも、ここは幼い時にエリックお兄様たちが連れ出してくれた庭の中のようで、とても暖かくて。…幸せです」
ステラがしみじみと広大なアイゼンベルク領を見渡し、エリックの問いかけにゆっくり答える。
その様子を見ていたエリックは、くすぐったそうに笑って小さくため息をつく。
ゆっくり起き上がりながら、口を開く。
「…なんだ。もしつまらなくて困ってるなら、オレと一緒に田舎暮らしでもしようかって誘うつもりだったのに」
「エリック…、そろそろ嫁さん探せよ?」
「うーん。隣国にも面白い子いなかったからなぁ。
ステラの方がずっと可愛いし」
「…お兄様、どうせ研究室に入り浸っていて社交なんてされていないんでしょう?」
バレたか、と舌を出してお茶目に振る舞うエリック。
アルベルトがやれやれと首を振るのをみて、ステラは声を上げて笑ってしまった。
ステラはこの自然に満ち溢れた土地を、素晴らしいアイゼンベルク領を愛する兄二人に自慢したくてたまらなかった。
「ほら、次は工房にいきましょう!」
「ステラ、そんなに張り切って体は大丈夫なのか?」
「アルベルトお兄様、私随分体力もついたのですよ」
馬車に乗り込もうと手を引っ張るステラに、アルベルトは宥めつつ、丁寧な案内を受けた。
***
夕方、日が沈み出す頃ヴォルフラムの馬の蹄の音が聞こえて、ステラが玄関へ向かった。
居間にいた兄二人も、ステラの夫の顔が気になって階段の上から玄関を覗く。
カラン、と鐘の音が鳴り玄関から入ってきたのは、立派な角が一本だけ生えた大きな鹿を肩に担いだヴォルフラムだった。
身長190センチほどある大きな体は、筋肉隆々だった。
真っ赤な髪と鋭い金色の瞳は野性的にギラついて見えた。背中に大剣を背負い、五日間も現場で暴れていたヴォルフラムは薄汚れていた。
「わぁ。でっかい鹿…すっげぇ。熊みたいな男じゃん」
「…あれが、ヴォルフラム・アイゼンベルクか」
第一印象は、かなり強烈なインパクトだった。
嬉しそうに駆け寄るステラも大きな鹿に驚いていた。
「ヴォルフラム様、おかえりなさい。
…わぁ、すごく立派な鹿ですね」
「ただいま。帰りがけに立派なのがいたから狩ってきた。
バルト!血抜きしてあるから、夜出してくれ」
「おかえりなさい!いい土産ですね!
ステラ様。鹿肉は鮮度が命なんです!夜のメインをお楽しみに」
腕まくりしながら厨房から出てきたシェフのバルトが、ヴォルフラムから大きな鹿を受け取り、軽々と持ち上げ意気揚々と厨房へ戻っていく。
ポロッと落ちた立派な角をステラが興味津々で拾い上げた。
「すごい、こんなの頭に乗せていて鹿は重くないんでしょうか…?」
「冬の間の王冠みたいなもんだな。春になったら今みたいにポロッと落ちるんだ。
…ん。俺臭いよな?体洗ってくる」
「ふふ、はい。居間で待ってますね」
ヴォルフラムが汚れた体で、ステラに極力近寄らないように気を付けているのに気付いて、可笑しそうに笑いかけるステラ。
ヴォルフラムがステラを見る眼差しはどこか甘かった。
二人のそんな様子を呆然と見つめていた、階段の上の客人にヴォルフラムは顔を向ける。
「よくぞ、はるばるこんな所までいらっしゃった。
屋敷を空けていて申し訳ない。…身綺麗にしてきます。
挨拶は後で!」
よく響く声で、階段上のステラの兄たちに声をかけると返事を待たずにズンズンとシャワーを浴びにいった。
ステラが鹿の角を持って、兄たちの元へ戻ると二人ともなんとも言えない表情をしていた。
「お兄様方、どうかされました?」
「…ステラの旦那、めちゃくちゃワイルドじゃん…!何あれ!」
「ご馳走を狩って来てくれたんだろうが、なかなか強烈な登場だったな。…正直驚いた」
確かにヴォルフラムと初めて会った時自分も、彼の身体の大きさに驚いたことを思い出すステラ。
フル装備で鹿を担いでいたし、あの時より大きく見えたのかもしれない、と兄達の反応に納得していた。
「魔物のお肉だと、もしかしたら私がお腹を壊してしまうかもしれないので。こうして野生動物のお肉も狩って来て下さるんです」
「そうか。…いい夫だな」
「鹿の角でっかい!ねぇ、ステラ俺これ欲しい。
ってか、今もしかして捌いてるの?見てきていい?」
「…エリック…!」
見に行っちゃいましょうか、とエリックと手を繋いで厨房に向かうステラに、アルベルトはやれやれと首を振っていた。
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