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『魔力アレルギー』の病弱令嬢ですが、『魔力なし』の辺境伯様に嫁いだら、心も体も健やかに愛し抜かれることになりました。  作者: 藤崎まみ


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評価、ブクマ、リアクションありがとうございます。


ステラ付きの侍女ハンナは、アイゼンベルク領での初めての冬を経験していた。


木枯らしが吹き付けたと思ったらあっという間に雪がちらつき、一晩こんこんと降り積もった雪で辺り一帯は白い世界に覆われた。


二、三週間ほど経つと、貿易や人の行き来、手紙のやり取りすら止まった。ここから辺境の人々は寒さとの戦いになる。


雪国の建築物は、屋根が鋭利で角度がつけられ、ある程度雪が積もったら重みで下に落ちるという工夫がされていた。暖炉の煙突から至る所でモクモクと煙が浮かぶ様子は、厳しい寒さを耐える領民の力強さを表していた。


早朝、防寒具をしっかり身につけ、裏口から出ると頭上につららが光っていた。気密性の低い建物は部屋の中が温まると屋根から熱が伝わり積もった雪が溶ける。外気の寒さに瞬く間につららができていた。


サッと氷落としで削り落とし、井戸小屋へ足早に入る。外の空気は顔がひりつく寒さだった。


この井戸小屋は地下水を汲み上げる表面が凍りつかないように建てられており、井戸の蓋にも断熱材代わりに魔物の毛皮が敷き詰められていた。


ハンナは地下水は流れがあるから凍らないのかと思っていたが、どうやら年中温度が一定で15℃くらいを保つため地中の水は凍らないそうだ。


雪を溶かして使うより断然地下水の方が暖かく、使い勝手が良かった。


王都で暮らしていたら知らないままだった北国の豆知識だったが、ハンナはこれから一生ここで暮らすことになる常識となる。

厳しい冬の寒さにも適応して行かなければならない。



***



ハンナは男爵家に生まれ、実家は貴族にしては田舎暮らしで貧乏だった。

花嫁修業として、侍女として出稼ぎに出ると、運良くベルシュタイン侯爵家に仕えることができた。


臥せりがちのステラに歳の近い侍女をつけて、話し相手になればとの、当主ルドルフの采配だった。


ハンナは生まれつき魔力が低く平民と同じ程度しかなかった。貴族社会での家の階級も低く、嫁入りは絶望的だった。


侍女として仕えながら、おなかいっぱい食べられる侯爵家は、まさにハンナにとってかなり良い就職先だった。

…ただ主人であるステラの体調だけが、心配の種だった。


体調が悪く、ろくに食べられず体力もどんどんなくなっていく様をステラが11歳頃からずっと傍で仕え寄り添ってきた。


侍女であるハンナや他の使用人に、何をするにも必ずお礼を言ってくれたり、倒れる度に迷惑をかけてごめんなさいと謝るステラは、心が綺麗な女性だった。


16歳のデビュタントの前に眩暈でふらつく身体を叱咤して、ドレスを選んだり準備していたのに、結局馬車にすら乗れずに部屋に戻ってきたステラ。


そんな時すら八つ当たりもせずに、寝室のベッドで一人枕を濡らすステラに、ハンナはずっと祈っていた。


…いつかステラ様が健康を取り戻して、彼女の望む素敵な男性の元で幸せに暮らせる日が来ますように、と。



「はー、寒かった…」

「ハンナ、おはよう。今日も水汲みありがとうな」

「おはようございます、バルトさん。…いい匂いですね」



はーはーと手袋をしていたのに、かじかむ手に息を吹きかけるハンナ。シェフのバルトが朝食の支度をしながら挨拶をしてくれた。


この屋敷で働くシェフや庭師は屈強な男たちが多く、顔や腕に大きな傷をもつものが多かった。きっと前職は前線に立ち、魔物の討伐に携わっていたのだろうと分かる。


メイドたちは屋敷の清掃や、庭師のヨルグと共につらら落としをしていた。

みんな働き者で、屋敷の空気もよく、ハンナはこの厳しい冬さえ乗り越えられれば、アイゼンベルク領での暮らしに文句など一つもなかった。


ステラの自室のドアをそっと開けるハンナ。

朝の支度の前に熱いハーブティや白湯などを飲めるように食器などを準備していた。


最近はステラの夫で領主であるヴォルフラムも一緒にゆっくりすることが増えていたため、2人分用意する。


寝室のドアをチラッと見るとまだ起床されていないようでシーンと静まり返っていた。


ハンナは小さく掻き消えるような声で呟いた。



「…一年前では考えられないですね」



ハンナは春のデビュタントのあと、ステラの体調不良の原因が『魔力アレルギー』だと判明し、家族ではない魔力を持つ自分が傍で仕えていただけで少なからず負担になっていた事に驚きを隠せなかった。


『魔力ゼロ』の辺境伯に嫁ぐことが決まり、抗アレルギーポーションがあればハンナの平民程度の魔力保持者ならば付き添えると言われた。


生まれて初めて貴族の身でありながら、低い魔力で生まれてきたことを神に感謝した。


元々ステラが、ベルシュタイン侯爵家からどこかの貴族家へ嫁ぐ際にはお供すると思って仕えてきたため、遠く離れた辺境の地だろうが場所はどこでも構わなかった。


…結果。アイゼンベルクで過ごす日々で、ステラはみるみる健康を取り戻した。


王都では、野蛮だの素朴だの田舎暮らしだの、悪い噂が絶えなかったアイゼンベルクだが、住めば都とはよくいったもので、領民や屋敷の使用人、領主のヴォルフラムも気のいい人々だった。


…皆手を取りあって、自分の仕事に誇りを持ち、毎日強く生きている。


新鮮な野菜や搾りたてのミルク、自然に溢れた生命力にハンナは自給自足の生活の実りの多さに驚いていた。


流行を追ったり社交界で注目の的になるなどの貴族としての生き方とはまた違い、領地経営の難しさと万が一自然災害が起きた時の蓄え方法など、ステラは頭を悩ませていた。


雪に閉ざされたアイゼンベルク辺境伯爵家では、冬ならではの実務に追われていた。


冬の間、昼間は執事のヘクターから本格的に領地運営についてビシバシ鍛えられているステラは、並々ならぬ努力をしていた。


そしてこのドア一枚隔てた寝室で、毎晩のようにヴォルフラムに深く愛されていた。


寝室の寒さを理由に、添い寝しようと毎晩訪れるヴォルフラムを受け入れるステラ。体を寄せ合って体温を分け合い、目が合えば唇を重ねていつの間にか肌を重ねていた。


冬は夜が長く、早く休む人が多い中、長い夜を楽しむ二人は朝もゆっくりだった。


…この様子だと、私もそろそろ婚活を早めた方が良さそう。


ハンナはステラの子の乳母にもなれないかと画策しながら、時計を見るとドアの向こうで衣擦れの音がした。


キャッキャとはしゃぐような二人の蜜月たっぷりの甘い空気に、ハンナはずっと祈っていた願いが叶った現実に胸がいっぱいになっていた。


ヴォルフラムの大きな体は正直少し怖いけれど、ステラ様に無体を強いるような人ではない。

…何よりもステラもヴォルフラムにゾッコンなのは見て取れた。


ただ朝からおっぱじめられては、多忙な主人の一日に影響が出てしまうため、良さそうなタイミングで寝室のドアをノックするハンナだった。



「おはようございます。ステラ様、ヴォルフラム様。

朝のお茶をご用意致します」


「わ、ほら、ヴォルフラム様…!ハンナが来ましたよ!」

「…たまには待たせたっていいだろ」

「ダメです…!…ぁっ、もうっ!」



つい、ふふっと笑みをこっそり漏らすハンナだった。





お読みいただきありがとうございます。


評価、ブクマ、リアクション励みになります

よろしくお願いします。



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