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屋敷に戻ったあと、処方された抗アレルギーポーションを飲み、副作用の眠気に襲われるステラは寝室であっという間に眠りについた。
ステラのデビュタントを心配していた家族に診断結果を報告したルドルフは、すぐに行動に移した。
…娘の一大事になりふり構っていられなかった。
5、60年ほど前から、主な魔道具は、魔物からまれに取れる魔石を使用した物から、自身の魔力を込め増幅させ効果を持続させるタイプの物が王都中心で流行っていた。
見た目がスタイリッシュで魔石の入れ替えが必要ないそれは画期的だった。公共の場では貴族街の街灯や高級料理店、観劇場などで最新魔道具として使われていた。
しかし、魔法を込められる人が必要になり、一般市民では魔石の方が持ちがよく普及しておらず、差別化されていた。
…しかもこの最新魔道具の基盤を作り出したのが、ベルシュタイン家の2世代前の当主だった。
ルドルフは、祖先の画期的な発明が愛娘の命を脅かしている事に酷く動揺していた。
ステラの部屋の灯りだけでも、魔石タイプの物を探し出して手配させる。母のマリアが他にもできることはないかと医師の診断書を舐めるように読み返していた。
そして、一通の親書を書き上げ速達でアイゼンベルク辺境伯家へと送った。
***
朝ステラが目を覚ますと、ポーションが効いているようで昏倒した後にしては体がとても軽かった。まだダルさは残っているが、薬の効果を感じるにつれて自分が本当に『魔力アレルギー』なんだと実感が湧いてしまう。
コンコン、とノックの音に返事をしながら、じわっと溢れ出る涙を指で拭う。
「ステラ、目が覚めたか?具合はどうだ」
「…はい、お父様。倒れたあとなのに、随分体が軽いです」
「よかった。あとで軽く食べれそうなものを持って来させよう」
「ありがとうございます」
寝台の横の腰掛け椅子に座ったルドルフが身体を起こすステラに手を貸してくれる。
昨日土色だった顔色が、生気を取り戻している様子にほっと安堵し、ルドルフは口を開いた。
「ステラ。…お前に選択肢を2つやれることになりそうだ」
「…はい」
「一つ、最新の魔道具のない田舎でひっそりと暮らす。
二つ、アイゼンベルク辺境伯家に嫁ぐ。このどちらかになる」
「お、お父様…!」
ステラはてっきり、一つ目の田舎暮らしで家族の厄介者としてひっそり暮らすか、難しいだろうが平民として生き、そこで上手く嫁ぎ先が見つかれば結婚するしかないと思っていた。
娘のそんな想定を読んでいたかのように父が続ける。
「お前も聞いたことがあるだろう。『魔力なし』のアイゼンベルク辺境伯だ。私は彼らを国の砦だと尊敬している。が、それと同時にお前にピッタリだとも思った」
「…本当に二つ名通りに魔力が無い方が辺境伯領を収めていらっしゃるのですか?」
家の庭で姉の開いたお茶会の声が、部屋の窓から聞こえてこっそり聞いていたステラ。
その時に聞いたのは、アイゼンベルク領は国の北側の辺境の地にあり、魔力の効きにくい獰猛な魔物が生息し、国への侵入を防ぐために辺境伯が置かれている。
代々、『魔力なし』の代わりに強靭な肉体を与えられた“ギフト”持ちの辺境伯爵が、屈強な兵士たちを従え、日々国家の安全のためにその辺境の地で魔物と戦っていると聞いていた。
ただ王都にいる貴族の令嬢たちからすれば、高い魔力が立場を図る指標であったし、野蛮で物騒な場所での田舎暮らしが強要される不人気な嫁ぎ先であった。
確か3つ上の姉がデビュタントする前から、婚約相手を募集していると話していたはずだった。
「ステラ。彼は『魔力なし』ということは、お前がアレルギーを発症しない、ただ一人の貴族男性だ」
「もしかしたら、…お世継ぎも…?」
「そうだ。…王家筆頭医官が詳細を書いてくれた。
魔力の少ない相手なら子が出来にくいことはあるが、産める確率は貴族よりはあると書いてあった」
…腹の子の魔力との相性などもあるだろうから、きっと相手の魔力がゼロであっても、子ができにくかったり、産めるまでステラが持たないかもしれない。
それでも貴族としての責務を果たせる可能性があるならば、ステラは迷う余地はなかった。
「お父様、お願いします…!辺境伯家が許して頂けるなら、お嫁に行かせてください」
「あぁ、お前ならそう言う思ったんだ。もう親書を送ってある。…返事を待とう」
「…子ができにくいことは記載して頂けましたか?私の体質についても…」
格上となる侯爵家からの打診に、あちらがそうそう断りにくい状況ではあるため、ステラはとても気になっていた。
苦笑しながらも、ゆっくりルドルフが頷くのを見てほっとため息をついた。
「いい返事が来たらすぐにでも向かえるように、急いでしっかり準備をしよう。ステラは体を休ませなさい」
ルドルフはこんなに早く末娘と離れることになるとは思っていなかったが、命が脅かされている以上一日でも早く魔道具から放たれる魔力で溢れる王都から離してやりたかった。
***
アイゼンベルク辺境伯の現当主、ヴォルフラムはその日も荒れ狂う魔物と戦っては返り血を浴び、危険と背中合わせの中、誇りを持って職務を全うしていた。
日が落ちた頃、兵士たちを叱咤激励しながら、帰路に着くと珍しく執事のヘクターが待ち構えていた。
「ヴォルフラム様…!おかえりなさいませ!」
「どうした、出迎えなど珍しいな」
「…はい、その急ぎのお手紙が」
「そうか、拝見しよう」
一通の親書。朝一番に屋敷に届かなかったということは、どうやら速達で送られてきている。裏の家紋をみると侯爵家のマークだった。
…屋敷に帰って落ち着いて見るべきだろうが、急ぎの用らしい。
格上からの手紙に、ヘクターがレターオープナーを手渡そうとしていたのをスルーして荒っぽく手で破って開く。
「…マジか、末娘を嫁にくれるってよ…」
「…は、拝見しても!?」
それは長年、辺境伯領を支えてくれる妻を募集していたヴォルフラムが欲して止まない、婚姻申込書だった。
ヘクターが飛び上がって驚きながら、まさかそんなはずはと手紙を確認する。ヴォルフラムも己の目が期待でおかしくなっていないか、目元を指で揉んで暫し思案する。
色々事情が複雑そうで、いわゆるワケありではあったが、ここは辺鄙な田舎暮らしだ。
…王都で生まれ育った若い娘は、本当にここで俺と生きていけるのだろうか…?
「なるほど…、これは確かに。婚姻を希望されておりますね」
「すぐに屋敷で返事を書こう。速達の用意を頼む」
「…は、はい。かしこまりました」
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