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ステラは出掛け先で熱を出したことで、自分の体質と体調により一層気をつけるようになった。
朝昼晩と少しのおやつをバランスよく食べ、天気のいい日には太陽の光をしっかり浴びるため、屋敷の庭園や畑にも足を運んだ。
メイドや庭師にハーブや野菜の水やりを手伝わせてもらったり、執事のヘクターから少しずつ屋敷や辺境伯家のやりくりなども学んでいた。
あっという間に、アイゼンベルクの短い夏がやってきた。
***
鋭い陽射しが照りつける前に、早朝の畑で色付いたトマトや一晩でパンパンに膨らむキュウリなどを毎日収穫した。
採れたての夏野菜たちはどれもみずみずしく、ステラは植物の実りに目を輝かせていた。
味見をどうぞと渡されたトマトを庭先で齧っていると、ヴォルフラムがステラを呼んでいた。
「なんだ、朝はここにいたのか…。探検の報酬か?」
「わ、つまみ食いがバレちゃいました…!」
「夏野菜は個人で賄う家庭菜園みたいなもんなんだ。この季節しか生は楽しめないから、たくさん食い溜めしないとな。…一口くれ」
「トマト、とてもみずみずしくて、甘いです…!」
食欲旺盛になりつつあるステラを笑うヴォルフラム。
ステラが隠す素振りをする腕を掴んで、小さな歯型が付いたトマトに大きな口でがぶりと齧り付く。
…ステラはヴォルフラムが咀嚼するのを至近距離で見て、少し頬を赤く染めた。
「シェフの作るトマトソースがめちゃくちゃ美味いんだ。備蓄して一年中食べられる」
「いいですね!今日はメイドたちと備蓄食材を作るんです。…ヴォルフラム様は暑いので、お気をつけて」
「あぁ。明日の夕食には間に合うように帰るな」
ヴォルフラムは強めの魔物の巣が見つかったと討伐要請が来ており現地に向かうことになっていた。
少し山の奥にあるため、泊まりがけだった。
兵を動かしに出勤していくヴォルフラムを、もう何度か見送るステラだが、やはり危険と隣り合わせの任務に少しだけ腹の奥がザワザワしていた。
…この緊張感はいつか慣れるものなのだろうか。
馬に跨って颯爽と駆けていく大きな背中を見送った。
***
アイゼンベルク辺境伯領の冬は長くて厳しい。
こんこんと降り積もる雪に厚く覆われて、中心部との貿易や人通りも少なくとも2ヶ月はストップするそうだ。
その為、少し多めに見積もっても4ヶ月くらいの備蓄食材を溜め込む必要があった。
トマトを輪切りにして干してドライトマトにしたり、細かく切ってハーブや香草とともに煮詰めて、煮沸した瓶に詰めれば万能トマトソースの出来上がりだ。
きゅうりやズッキーニはお酢とハーブと塩でピクルスに。軽く焼いたり、干したりしてハーブとオイル漬けも作る。
これも冬の間の貴重な野菜の食感を残すための知恵だった。
「ハーブも乾燥させて、冬の間に使うのですね」
「はい!ハーブは強いので雪の下でも枯れることはないのですが、毎朝雪を掻き分けて採取するのは難しいんす」
「ローズマリーは多めに取りましょう…!」
「ふふ、ステラ様の好物ですものね」
メイドに色々教えて貰いながら、率先して冬の支度を手伝った。
ステラは王都にいた頃は温室で収穫したものや、輸入された野菜を口にしていたので、北国の冬の準備が夏から始められるものとは知らなかった。
シェフの監督の元、毎日収穫できるように沢山水を撒いて朝どれ野菜を味わいながら、コツコツと備蓄を作っていった。
「ヴォルフラム様、おかえりなさい」
「ただいま。あー、今日は返り血浴びて汚ぇんだ…。
川で洗ってきたけど臭いだろうから、待っててくれ」
「気にしませんのに…」
ステラが何度目かの討伐から帰ってきたヴォルフラムを出迎えるが、いつもこうして帰還してすぐは煙たがられてしまう。
…久しぶりの夫の顔早く見たかったステラは、仕方なく飲み物を用意しにキッチンへ下がる。
ヴォルフラムからしてみれば、ステラに少しでも不快感を与えたくないという男心が芽生えていた。
屋敷のメイド達はそんな主人達の仲睦まじい様子に、ほっこりと生暖かい視線で見守っていた。
***
ジリジリと照り付ける夏は、一ヶ月ほどであっという間に終わりを告げた。
あんなに青々と葉っぱが茂っていた菜園が、朝晩の風が冷たくなると一晩で萎びてしまった。
そんな肌寒さすら感じる朝、ステラは実家であるベルシュタイン侯爵家から一通の手紙と荷物を受け取っていた。
定期連絡はこまめに行っていたステラと家族だった。
今回のはステラの体調を慮る内容だけではなく、輿入れに間に合わなかった嫁入り家具が送られてきていた。
中を開封して確認してくれた執事のヘクターが首を傾げている。
「どうやら魔道具のようです。
屋敷でも魔石仕様の魔道具はいくつかありますが、見たところ最新式のようなのです」
「お父様に何か考えがあるのだと思います。…手紙を読んでみます」
「お願いします」
最新式魔道具というのは、ステラが拒絶反応を起こしてしまう原因となるものだった。そんなものを父親が送り付けるはずがないと慌てて手紙を読む。
要約すればそれは、魔石を使うスタイリッシュな新型魔道具だった。
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