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「どうした?食べないのか」
「小さい時のことを思い出していました。…私、末っ子で結構ヤンチャだったんです」
「そうなのか?…意外だな」
串焼きにかぶりつきながら、ステラの話に耳を傾けるヴォルフラム。
ステラより7歳差の長兄と年子の次兄に甘やかされて育った。屋敷の庭や別荘の原っぱで駆け回って森で木登りなどして、活発に遊んでいた幼少期を思い出す。
…実は母が心配するくらいには結構、お転婆な女の子だった。
ステラは広場の隅にある広葉樹を指さす。
「あれくらいの木には喜んで登って落ちたり、走って転んで怪我したり日常茶飯事だったんです。
お母様とお姉様に怒られるけれど、二人の兄たちが勉強の合間に内緒で連れ出してくれて…とても楽しかった」
「そりゃ、随分お転婆だな。…流行り病にかかったのが、いつだって…?」
「10歳の冬でした。家庭内感染で、順番に発熱したんです。…最後にかかった私は高熱が中々下がらなくて」
ステラだけ高熱が一週間近く続いて、熱で朦朧とする意識の中、夢現に見た悪夢がとても恐ろしかったのを思い出す。…ゾクッと悪寒がした気がするステラ。
何とか命は落とさなかったが、拗らせて弱った体が悲鳴をあげて、そのまま原因不明の体調不良が続いた。
…色々あって今に至っている。
「頭痛も吐き気もない日が、こんなに続くなんて……!夢みたいです、ヴォルフラム様」
「…そうか、本当に良かったな。ほら冷めちまうぞ、食え」
「…!このお野菜もお肉も、とっても美味しいです!」
促されるまま、串に食いつくと、チキンの間に挟まったネギがとても甘い。味付けは塩と胡椒だけなのにとても美味しく、目を輝かすステラ。
ごくんと飲み込むと、次を食べようとするが何故か食欲が無くなるのを感じる。
…どうしたんだろう。
「ステラ?どうした?…なんか顔赤くないか」
「なんだか胸がいっぱいで、食べられなくて…」
「任せろ、残りは引き受けよう」
またヴォルフラムに食べ残しを食べさせてしまって、ションボリするステラ。ゆっくり自分の胸に手を当てて深呼吸する。
…少し、はしゃぎすぎてしまったかもしれない。
体が急に重くなっているのを感じていた。
ヴォルフラムが、少し前屈みになるステラの様子がやはりおかしいとそっと手に触れると、じんわり熱い。
「…少し触るぞ」
「ん、…はい、すみません」
「熱があるな、これは」
ぴとりとおでこに大きな手が当てられて、体温を確かめられるステラ。
吐き気や頭痛はないし、他に体調も悪くないのに、結局熱を出して迷惑をかけてしまったようだ。
…せっかく屋敷から連れ出してもらったのに。
ひょいっと抱き抱えられて、大きく逞しい胸板が視界に入り、驚いて服を掴むステラ。
お姫様抱っこにしては、ステラが細すぎてなんだか幼い子どもを片腕に抱き抱えるような形になっている。
「…ヴォルフラム様…、ごめんなさい」
「気分は悪くないのか?」
「はい、…なんで熱が出たのか」
「はしゃぎすぎたんだろう。…楽しかったか?」
今にも泣きそうな顔をして、こくんと、小さく頷くステラを見下ろして、ヴォルフラムは豪快にハハハ!と笑う。
「なら今度はデザートまで食べられるようになろうか。リベンジしに来よう。…何度でも付き合おう」
「はい…。次は牛や羊を、見に行きたいです」
「動物も好きなんだな。それは民も喜ぶ」
少し揺れるぞ、と声をかけてから、屋敷へ戻る道を行きよりも倍以上のスピードで戻っていくヴォルフラム。
ステラは、いくら体調が良くなったとはいえ、弱った自分の体の体力が思っているよりも少ないことを、やっと自覚していた。
その日の後。
領民の間で『初夜後、嫁放ったらかし離婚(?)騒動』がお出かけデートで何とかなったことは周知の事実となった。
また、夫人であるステラが思っていたより繊細な令嬢で、無骨なヴォルフラムで大丈夫かと心配する声が上がっていた。
田舎の平民の住む場に、お忍びで顔を出してくれたステラ自身の印象は、好感を持つものがとても多かった。
…せっかく嫁に来てくれた可愛らしい、体の弱い奥方を逃がすな!そんな声が上がっていた。
***
ヴォルフラムに抱き抱えられて、帰ってきたステラをみて、執事のヘクターはすぐに医師の手配をすると何故かもう話が行っていて向かっていると返答がきた。
…気を利かせた近くの住民が街の医師に声をかけていたのだ。
侍女のハンナは、慣れた手つきでステラの服を着替えさせ、髪を解いて水分を取らせる。太い血管のある部位に氷のうで冷やしていく。
ステラが出掛けて帰ってきて、元気でいる方が珍しく、発熱くらいで済んでいるのは想定内だった。
「ハンナ、…お土産買って来られなかったの。ごめんなさい」
「ふふ、いいんですよ。近くなら今度お休みを貰った時に自分で見に行きますし。…おすすめのお店はありますか?」
「あのね…!大通りの一本奥に、ビーズ細工のお店があったの」
受け答えにはっきり答えなんなら楽しそうなステラ。
ハンナは意識はしっかりしているし、吐き気や頭痛もないと聞いて、疲れが出たのだと判断する。
後から来た医師の診察も概ねその通りだったが、ついでに健診を受けたところ…
「…栄養失調気味?
まぁ、そりゃ食えてないなら、そうもなるだろうが…」
「よく食べられるようになったので、すぐに健康体になれるとも言われました」
寝室に見舞いに来てくれたヴォルフラムに、診察結果を報告すると、彼は眉間に皺を寄せている。
ヴォルフラムはそっと口を開いた。
「なぁ、ステラ。
王都からちゃんとした医師を呼びつけようか?主治医はどう言ってるんだ?」
「街のお医者様も、きちんとされてる方でしたよ。
…たまたまデビュタントの際に、王家筆頭医官に診てもらえるまで原因不明で対症療法でしたし」
「なら義父上にも、現状の報告と今後の治療方針を相談しよう。…あの抗アレルギーポーションも携帯しようか。追加で飲めるんだったな?」
ヴォルフラムは、自分と出かけているときに体調不良を起こしたステラに、何も出来ない自分が歯がゆかった。
もし今回の原因が、あの口した食べ物の拒絶反応だったら?
近くに把握していない魔道具に反応しているのなら、頓服でポーションをすぐ飲めるようにしておかなければならなかった。
ステラもヴォルフラムも、アレルギーの対処の仕方がしっかり分かっていないうちは、もっと良く考えて行動するべきだった。
「ほんの数時間の予定だったので、薬はいらないと思っていましたが、周りにも迷惑がかかりますし…きちんとします。
今日は連れて帰ってくださってありがとうございました」
「うん。お互い気をつけよう。
…ほら、シェフ特製のパン粥だ。ステラの好きなミルクで作ってくれた」
少し体を休めて、食欲が戻ってきていたステラはゆっくり体を起こす。
てっきり簡易机を置いてくれると思ったのに、ギシリとヴォルフラムが寝台に腰掛けていた。
「あ、あの、ヴォルフラム様…?」
「待て。結構熱いぞ」
「私、自分で食べられますよ…?」
「いいんだ、また無理するつもりだろう。
おてんば娘は目を離すと、すぐに探検に行くからな」
フーフーと冷ました、スプーンに乗せたパン粥をあーんと口に持って来られ、ステラは子ども扱いされている様子にカッと顔を染める。
…でも差し出されたパン粥はとても食べたい。
ゆっくり口を開けたステラが咀嚼すると、ミルクの甘さがじんわり口の中に広がる。パンも柔らかく煮込まれトロトロでまるでデザートのようだった。
「美味しいです…!定期的に熱を出したいくらいです」
「なら、その時はこうして食べさせてやろう」
「…もう、ヴォルフラム様!」
「ハハハ!ほら、あーん」
悔しそうに笑うステラが、あまりしんどそうじゃなさそうなのに安堵するヴォルフラム。
彼は、心の奥に燻る彼女へのこの気持ちが、同情だけではないことに気付き始めていた。
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