第4話 黒の台帳
都市《NEXUS》の地下深層。
そこに、“存在しない部屋”がある。
外部回線なし。
物理隔離。
完全暗号化。
NOIR VEILの中枢――《黒の台帳》。
クロウは重い扉の前に立っていた。
セラとルクスもいる。
そして、その中央に――俺。
「本来、お前をここに入れること自体が規定違反だ」
クロウが言う。
「だが例外だらけだ、今日は」
扉が開く。
室内は意外なほど静かだった。
巨大なスクリーン。
無数のデータの海。
都市の裏記録、すべてがここにある。
人の出生。
死亡。
改竄履歴。
消失処理。
“誰が、いつ、どのように消えたか”。
クロウが操作する。
「検索対象:神谷零」
――該当なし。
「検索対象:観測不能個体」
――該当なし。
「検索対象:Absolute Detach」
一瞬だけ、画面がノイズを吐く。
そして。
一行、表示された。
《Oblivion Protocol ― 管理外領域》
空気が凍る。
ルクスが口を開く。
「……それ、三勢力の共有禁則ワードだよな」
セラが低く答える。
「存在してはいけない計画」
クロウの声が硬い。
「NEXUS設立初期に、破棄されたはずの構想だ」
都市《NEXUS》は、実験都市だ。
“均衡によって戦争を防ぐ”
それが建前。
だが、裏にはもう一つ目的があった。
三勢力すべてを無効化する存在を生み出すこと。
均衡を超えた“抑止力”。
コードネーム。
《Oblivion》
忘却。
「……俺が、それだって?」
誰も即答しない。
その瞬間。
地下が震えた。
停電。
スクリーンが落ちる。
非常灯だけが赤く灯る。
クロウが即座に通信を飛ばす。
「防衛網は?」
返答はない。
ルクスが端末を叩く。
「情報系、全遮断。外部からじゃない。内側からだ」
セラが息を呑む。
「三勢力のシステムが、同時に切られてる」
俺は、違和感を覚える。
この感覚。
“接続が断たれている”。
だが――俺の能力じゃない。
もっと大きい。
都市全体規模。
赤い非常灯の中。
黒い影がスクリーンに映る。
電源がないはずの画面に。
ノイズの向こう。
文字が浮かぶ。
《管理者権限、回収》
クロウの顔が凍る。
「ありえない……台帳は俺以外触れない」
文字が続く。
《Oblivion Protocol 第二段階 移行》
セラが俺を見る。
「あなたは第一段階……?」
ルクスが笑わない声で言う。
「じゃあ第二は何だよ」
その答えは、すぐに来た。
都市全域。
停電。
信号停止。
通信遮断。
“均衡”が、完全に切断された。
俺は理解する。
俺は均衡を壊す存在じゃない。
俺は――
“鍵”だ。
本当に動き出すのは、ここから。
次回、第5話「均衡崩壊」
最後までお読み頂きありがとうございました。
自分でも何言ってるかわからなくてびっくりする。




