第一話 存在値ゼロ
世界には、三つの裏社会がある。
少なくとも、この都市《NEXUS》には。
ひとつは――
記録を書き換える組織《NOIR VEIL》。
ひとつは――
過去を切断する組織《COVENANT: ZERO》。
そしてもうひとつは――
真実を拡散し、世論を操る《AURORA SYNDICATE》。
表向き、彼らは存在しない。
だが、この街で“何か大きな事件”が起きたとき、
必ずどこかが動いている。
事故がなかったことになる。
犯罪者が別人になる。
あるいは、突然ヒーローが誕生する。
それが、この都市の均衡だった。
――そして俺は、その均衡の外に落ちた。
⸻
朝、目が覚めた瞬間から違和感はあった。
スマホの通知がゼロ。
いや、それはよくある。
だが問題はそこじゃない。
SNSにログインする。
エラー。
「このアカウントは存在しません」
は?
もう一度確認する。
メールも消えている。
クラウドデータもない。
友達のアカウントを検索する。
俺との写真が、全部消えている。
心臓が嫌な鼓動を打つ。
学校へ向かう。
出席番号を呼ばれる。
俺の番号だけ、飛ばされる。
担任は気づかない。
クラスメイトも反応しない。
「先生、俺――」
声が届かない。
正確には、聞こえているはずなのに
“認識されていない”。
存在はしている。
だが、世界に接続されていない。
⸻
放課後、家に帰ると
両親が俺を見て首を傾げた。
「どちら様ですか?」
その瞬間、理解した。
これは偶然じゃない。
事故でもない。
俺は――
存在値ゼロになった。
⸻
この都市では、人間の“社会的存在値”が管理されている。
信用情報。
戸籍データ。
履歴。
人間関係。
NOIR VEILがそれを調整する。
問題が起きれば、数値は削られる。
極端に下がれば、社会的に“死ぬ”。
だがゼロはありえない。
ゼロとは、記録不能。
存在しないことになる。
⸻
夜。
ポストに一枚のカードが入っていた。
黒い紙。
銀の文字。
《RE:VEIL》
裏には一行。
> You were never erased.
> You were detached.
消されたのではない。
切断された。
その瞬間、頭の奥に何かが流れ込む。
接続。
断線。
干渉。
俺は気づく。
これは被害ではない。
能力だ。
⸻
俺はスマホを握りしめる。
目の前でニュース速報が流れる。
NOIR VEILの内部データ異常。
COVENANT: ZEROの契約破損。
AURORAの拡散ネットワーク停止。
三勢力が同時にエラーを起こしている。
理由は一つ。
俺が、彼らの“接続点”を切ったからだ。
⸻
頭の中に言葉が浮かぶ。
《Absolute Detach》
あらゆる接続を切断する力。
能力も。
契約も。
記録も。
だが同時に。
俺自身も世界と繋がれない。
完全な孤独。
それが代償。
⸻
スマホに、黒いアイコンが表示される。
タイトル:
OBLIVION
実行しますか?
YES / NO
画面の向こうで、
三つの勢力が動き始めている。
NOIR VEILは俺を“修正”しようとするだろう。
COVENANT: ZEROは“再定義”しようとする。
AURORAは“暴こう”とする。
だが俺は――
そのすべてを拒絶できる。
⸻
指が震える。
怖い。
だが同時に、理解している。
これは選択だ。
逃げるか。
均衡を壊すか。
それとも――
俺は、YESを押した。
⸻
都市の光が、一瞬だけ消える。
そして三つの組織に、同じ警告が届く。
【観測不能存在、発生】
その名は――
忘却の使徒
最後までお読み頂きありがとうございました。
持病に厨二病を患っております。ご了承ください。




