03 灯火
オイルランプの灯りに浮かぶ、よく似た母娘。
ノアは飽くこと無く見つめた。
この幸せを領地の息子とも早く共有したいと切に願った。
長い時を経て囲むテーブルはとても温かかった。
三人は食堂から居間へ移り、ゆったりとした時間を過ごしていた。
クリスは意を決して、キアラにリボンが掛けられた包みを渡した。
真っ赤な顔で小さな包みを差し出すクリスはまるで幼子のようだ。
「なあに?」
紅潮した娘の顔につられて、キアラは優しい声音で言った。
包みを受け取り、スルスルとリボンを解く。
小箱から淡く輝く光の粒を取り出した。
「素敵。とても綺麗ね」
クリスの手を取り、隣に腰を下ろさせた。髪を梳き、額にキスをする。
キアラもあまり背の高い方ではないが、まだ幾分クリスよりは高い。
「かけてくれる?」
キアラはクリスに箱を差し出した。
「気に入ってくれた?」
言葉遣いまで幼子に戻ってしまったようだ。
「もちろんよ」
長い間首にかけられていたグラスホルダーを「ありがとう」と、ノアに手渡す。
キアラが連れ去られたのは七年前。作ったのはそれよりさらに二年は前だ。
ほつれそうになる度に新しいコードに通し直したようだ。
色もくすんで重ねた年月が刻まれているように見える。
「お疲れさま。今までありがとう」
ノアはそっと手のひらで包んだ。
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夕暮れ間近の冷たい風が少年の蜂蜜色の髪を通り抜け、上気した顔を顕にした。
彼の立つ台地の下方には、なだらかな坂道をこちらに向かって来る馬車が見える。
三日の旅程が組まれた家族の乗る馬車だ。
「やっと、お母様に会える!」
待ちきれぬ様子で門の外まで走り、到着までまだかかりそうにも係らず手を振りだした。
いよいよ敷地内へ馬車が滑り込む。
彼は玄関まで走り、キャビンのドアが開くのを待った。
「エリオット、待ったかい?」
最初に降りてきたのは父のノア・アンバーブロウ。次に敬愛する姉クリス。
ノアの手がキャビンに向けられ、待ち続けた母キアラが姿を現した。
「お母様!」
堪らず走り寄るエリオット。が、途端に恥ずかしくなってもじもじと立ち止まってしまった。
キアラはクリスの時と同じ様に、両手を広げエリオットを迎えた。
「大きくなったわね。もう同じくらいじゃないの」
夏の休暇から三月程しかたっていないが、すでにクリスより背が高くなっている。
「ぼ、僕はお父様似で、背が高いみたいです」
嬉しさと思春期の照れくささで、エリオットは少し訳がわからなくなっている。
「そうね、お父様に似て格好良いわ」
キアラはそんなエリオットに気づきつつも、ぎゅっと抱きしめて背中をぽんぽんと叩いた。
「あ、ありがとう。お母様。ずっとお会いしたかった」
「さ、皆様。お寒うございますから、中へお入りくださいませ」家令が促す。
エリオットはキアラの右手を取り、ぎこちなくエスコートして居間へと導いて行った。
キアラは息を詰め、ぐるりと周りを見回した。
温かなランプの灯る部屋、家令と見覚えのある使用人たちの顔。
そしてエリオット、クリス、最後にノア。
「ああ、やっと帰ってこられたのね⋯⋯」
はらはらと涙が流れる。
ノアがゆっくりと優しく包み込んだ。
「おかえり。キアラ」




