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マグノリア王国 外伝  作者: 小日向 おる


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2/2

手渡される者

「おかえり。六十二」


 ハルト・カツラギが大神殿に戻った『聖女の人形』に声をかける。

 人形は少し戸惑ったような様子で、返事をしない。


「マスター、彼女は長い間『モクレン』と呼ばれていたのです」


 モクレンの後ろからダミーが声をかける。


「そのあたりも含めて六十二代の話を共有しようか」




 かつて地球からやって来た移民船、通称『星船』の医療棟では『聖女の人形』の製造が行われた。六十四槽あった調整槽だが、今ではほんの小さな一体がたゆたっているだけだ。


 ベニニタスの訃報を受け、ダミーはクレプスクルムの『戴冠の儀』の半月前にオリジナルであるハルト・カツラギを覚醒させた。


 これまでも急な継承が無い限りはこの様なサイクルで動いてきた。

『戴冠の儀』と『聖女の人形』の供与をハルト自らが行う。

 ハルトとダミーは王の死後王妃から突き返される人形を交えて、その代にあった出来事を擦り合わせる。


 星船のハルトの自室には、彼と同じサイクルで目覚めたソフィアが待っていた。


「お疲れ様」そう言って色違いの自分を抱きしめた。

 ダミーはテーブルを囲んだ三人の為に茶を点て、甘味を添えた。


「⋯⋯抹茶?」ハルトが首を捻る。


「はい。第六十二代の王妃陛下がお好きでしたので。改良したチャノキを庭園で育てておいでです。ステファン様のご子孫でいらっしゃいます」


「⋯⋯彼は物静かかと思えば、過激なまでに科学を嫌っていたな。その子孫が人形を愛でるとは。シャハルの血が混じっているせいかな」独りごちるハルト。




「私、クラーワ様に名前をいただきました。モクレン、と」


 モクレンは胸の前で何かを包み込むように、そっと手を合わせた。

 ハルトとソフィアは、ダミーとモクレンに事のあらましを聞く。王妃クラーワが何故『聖女の人形』に名前を与えたのかを。


「珍しい事もあったものだ。それで今まで王城にいたのか」


「はい。次の人形が来るまでは、とクラーワ様が。私も離れ難くて」


 ハルトは目を瞠った。これまでこの様な王妃と『聖女の人形』の繋がりは無かったからだ。

 国王は人形を隠匿し、王妃は人形を忌み嫌った。

 そのせいだろうか、モクレンは他の人形より情緒が育っている様に見えた。


「だが、今回も今まで通りの反応だった」


「ベニニタス様は頭の中で声がするとおっしゃってました。クレプスクルム陛下も同じなのかも知れません」


 ──なるほど。と、ハルトは思う。

 今までもそんな話は出ていた。何処かから干渉を受けているのだろう、と。

 それにしても何故そこまで、シャハルはソフィアに執着するのか。

 ハルトはソフィアを見遣る。


「最後の()は人として育って欲しいの。子供のうちから。『聖女の人形』の役は私がやるわ。⋯⋯絶対シャハルが何かするはずよ」


 ソフィアは薄紅色の茶碗に視線を向けたまま言う。


「やるだろうね。君の身が心配だが、駄目だと言っても聞かないんだろう?」ソフィアが頷く。

「僕も()を送り出して来た責任を取らないとね。一緒にやるよ」


 最後の六十四人目を人として育てるにしても、タイミングが重要だ。

 自分たちの覚醒に問題が生じないとも限らない。


 今成長を始めさせれば最後の王、ディルクルムと年回りが合う。四歳違いで彼のもとに渡せるだろう。

 通常は調整槽の中で成長を早めるなどして王に与えてきた。今回人として表に出すのなら、人と同じスピードで育成させるのがいいだろう。


「フローレスのルース家に連絡を取ろう。彼らの協力が必要だ」




 一通りモクレンとダミーから聞き取りを終え、ハルトは立ち上がる。

 フローレスに回線を繋ぎ、応え(いらえ)を待つ。


 後ろでソフィアがモクレンを相手に「フローレスはここより南だから、日に焼けるわよね?」などと肌の手入れについて話し合っている。

 フローレスから応答があり、概要を話し訪問の約束を取り付けた。

 たまにダミーが使用している偵察機を使えば、即日の訪問が可能だ。




「ねえ、どうして人形たちはアルビノなの?」


 通信を終えたハルトにソフィアが訊ねる。


「恐らく、ルシア・ロペスがやった。シャハルは君の瞳と髪の色に執着していたからね。僕は専門外だったから基本通りに設計したんだ。あの部屋に入れたのは、僕とシャハルと、ルシアだけだ。シャハルが色を変えるとは思えない」


「どうして?」ソフィアは知らない。ルシアの本質を。


「ルシアはね、シャハルが欲しくて堪らなかったんだよ」


 ソフィアは嫌そうに顔を歪めるが、ハルトは続ける。


「シャハルが死んで、二代目の時に会ったんだけどね。彼女、シャハルによく似た子供を連れていたよ。あれは、シャハルの子だろうね。⋯⋯勝手に作った。夫は金髪ではあったけど、まるで似てなかった」


「勝手に⋯⋯って」


「シャハルとステファンの娘の子供、二代目の国王は人工授精だ。その時に自分用に取っておいたんじゃないかな。シャハルも元老院もどう思ってたかは、僕は知らない。けど、問題になってなかったから黙認したんだろうね」


「⋯⋯めんどくさい」ソフィアは盛大にため息をついた。




「六年後にはフローレスに養女に出す。それまではダミー、頼んだよ。最終調整は僕がやる。引き渡しはダミーにお願いするよ。いいね?」


 フローレスのルース家との会合を終え、ハルトとソフィアは再び眠りについた。

 ダミーとモクレンの見守る中、小さな命が育ち始めた。 

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