宮廷料理人
「ここか」
料理人、アシル・クドゥーは国王から直々に異動を命じられた。
「勇者と戦災孤児ね……」
異動先は辺境にある一軒家。
魔王の爪痕は世界中にある。その中でたまたま勇者に拾ってもらえた幸運な子供だろうとアシルは考えていた。
「うっし。俺の料理で腹と心を満たしてやるか!」
玄関を開けると、そこには元気な子供がいた。
「勇者! 見てみろ野ウサギだぞ!」
「おー、今日来る人に料理してもらうか。……おや?」
勇者は玄関に立つコック帽を被った長身の男に気づく。
「もしかしてアシルさん?」
「……ああ。そうだ」
「ちょうど良かった。この野ウサギを料理してくれませんか」
「野ウサギか……いいだろう」
思ってたより明るい空気だったため、アシルは「お呼びでないのでは?」と思ったが、勇者から要望があったため挨拶代わりにと調理に取り掛かる。
ルーシーから野ウサギを受け取ると手早く血抜きして内臓を取り出し、皮を剥ぐ。
「おー! 手慣れておるのー!」
「さすが宮廷料理人だな」
城から持ってきたワインとハーブでマリネすると、スープとサラダも準備する。
「いやー、懐かしいな」
「そういえば、パーティに料理人がおったと言っていたな?」
「ああ。あいつの料理は美味かったよ。魔王を倒すモチベの一つになってた」
「ほほう。余も食べてみたいものだな」
「ま、宮廷料理人には及ばないだろうけどな」
「勇者さんよ」
「なんですか?」
「二人にアレルギーはあるか?」
「アレルギー?」
「なんだ、アレルギーを知らないのか。食べると蕁麻疹が出て体が痒くなったり、息苦しくなったり、そういった体調の変化は経験あるか?」
「いや、俺はないかな。ルーシーは?」
「ふむ。特には思い当たらんな」
「そうか、安心したよ」
「ところでアシルさんは――」
「敬語はやめてくれ、俺は勇者と同様に戦災孤児の腹と心を満たしに来ただけだ」
「ん? アシルは国王に言われて来たのであろう?」
「そうだ」
「余のことはどう聞いておるのだ?」
ルーシーに問われたアシルは一瞬「余って王族か?」と気にはなったが、詮索する趣味は無いのでスルーした。
「どうって……。魔王との争いに巻き込まれた子だろう? 勇者に拾われた」
「ふむ。勇者よ」
ちょっと来い。と指でジェスチャーして外に出る。勇者も「ちょっと失礼」と外に出る。
「どうやら、あやつは刺客ではなさそうだな」
「だな。なんか真面目に仕事しにきた料理人って感じだ」
「確か、作戦がある時は12人の魔法使いから連絡が来ると言っておったな?」
「そうだ、念のために確認しよう」
通信機で呼び出すと、すぐにサファイアが応答する。
〈どうしました?〉
「先程、宮廷料理人が到着したんですが、あの人は本当にルーシーのこと知らないんですか?」
〈ええ。ルーシーに毒は無意味と報告は受けていますし、宮廷料理人に戦闘スキルはありません。もちろん魔法も日常的なものしか使えません〉
「宮廷料理人は城で仕事をするものではないのか?」
〈基本的にはそうですが、国に不利益をもたらすので無ければ別の場所で仕事をしてもなんら問題はありません。それに、魔王を実質的に無力化した勇者様の功績を考えれば当然のことです〉
「ありがとうございます。では私たちはこのままアシルさんに食事をお任せしていいんですね?」
〈はい。国王陛下も『存分に食らうがいい』と仰せです〉
「余は、今はじめて国王陛下を尊敬した」
「お前はどんだけ食い意地張ってるんだ……。ありがとうございます。それでは」
通信を切って家に戻ると、アシルが「野ウサギはまだ時間が掛かるから夕食用にするぞ。昼はなにがいい?」と訊ねるので、「余はフレンチトーストが食べたい!!」とルーシーが熱い眼差しを送る。が――
「フレンチトーストか……。それも時間が掛かるからな、夜のデザートでいいか?」
「なに!? そんなに時間が掛かるのか!?」
「ああ。仕込みという作業があってな」
「ゆ、勇者よ、まことか?」
「まあそうだな、本格的に作ると手間暇が掛かるらしい。俺はかなり省略してるから」
「な、なんということだ……。勇者の手抜きであれほど美味かったというのか……」
「手抜き言うな。素人だということを忘れるな」
「さて、どうする? 特に希望が無ければパスタにするが」
「おー! パスタも好きだ! 頼む!」
「じゃあ俺もそれで」
「分かった」
宮廷料理人の料理が食べ放題と聞いた二人は、共同生活やって良かったと心から感謝した。
「料理全部任せられるとか最高だなー、しかも国で最高クラスの人に」
「勇者の料理スキルは酷いものだったからな」
「うっせえ」
「そんなに酷いのか?」
「うむ。得意料理はベーコンエッグと手抜きフレンチトーストだ」
「……それだけなのか」
「俺は今まで勇者スキル全振りだったからな。食事は全て料理人に任せてた」
「そうか。それなら仕方ないな」
「お、味方ができた」
「冒険者なら料理ができる人間も多いが、魔王討伐に集中するなら勇者スキルを磨くべきだろうからな」
「そうなんだよ! 料理人の方に分かってもらえるとは思わなかった……!」
勇者は理解してくれる人間に出会えて心底嬉しかった。
「しかし勇者とは潰しが効かん仕事だな」
「あー、そうなんだよな……。今は国王陛下の命でこうしてルーシーの世話しながら宮廷料理人が食事用意してくれるなんて贅沢できるけど、死ぬまでこんな生活できるわけじゃないからな。どう生計を立てるかも考える必要がある」
「平和のために命を懸けて戦った勇者も、平和になったあとはただの無職とは、無常だな」
「アシルとはいい酒が飲めそうだよ」
話している間に茹で上がったパスタを鷹の爪とニンニクオイルで炒めて皿に盛り付ける。
「待たせたな。ペペロンチーノだ」
今まで嗅いだことのない芳しい香りにルーシーは期待が膨らんだ。
「……っ!!」
口いっぱいに広がるニンニクの風味と香ばさ。絶妙な塩加減とピリッとした辛さがたまらず、ルーシーは一気に完食してしまった。
「はぁ……。こんな美味しいパスタを食べたのは生まれてはじめてだ」
一方の勇者も、その美味さに舌鼓を打つ。
「これは本当に美味いな」
「ふっ。それだけ喜んでくれれば料理人冥利に尽きるよ」
「アシル。来てくれて本当にありがとう」
「油断してると太るぞ。覚悟しとけよ」
――このあと夕食もめちゃくちゃ食べた。
To be continued→
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