神出鬼没の魔法使い
魔力が枯渇すれば星は死に、星が死ねば生き物は生けていけず人間も魔族も等しく滅ぶ。
「……」
勇者は考えた。魔王に騙されてはいないかと。魔力が枯渇すれば星は死ぬ。そんなことを国王や12人の魔法使いが考えないはずがない。
「このままだと魔力はいつ枯渇するんだ?」
「余の計算では120年程だな」
「120年……。それはつまり、星が死ぬまで120年ってことか?」
「うむ」
「……そうだ! 人間が魔力消費を抑えればいいんじゃないか?」
「勇者も少しは頭が回るようになってきたではないか。確かに人間が魔力消費を抑えれば星が死ぬことはない」
「じゃあ、国王陛下に進言すれば」
「残念ながらそれは無駄だ」
「ど、どうして?」
「余は何度か人間を説得しようと試みたことがある。当然、各国首脳にも危機を伝えた。魔力消費さえ減らせば人間を滅ぼすようなことはせぬとな」
「それで……?」
「答えはノーだったよ」
「な、なんで?」
「信じようとしなかったからだ。魔力は世界に潤沢に存在する。それらが尽きる訳がないとな」
「そんな……」
「勇者よ、お前も余の話を聞いて一瞬疑ったであろう?」
「――っ!」
心を読まれたのかと一瞬身構える勇者に、魔王は「魔術など使っておらんよ。様子を見てれば分かる」と言って落ち着かせる。
「もうすぐ世界の魔力が尽きると、魔族に言われてすぐ信じる人間のほうがどうかしている。そもそも種族、思想、行動原理、全てが異なっているのだ。人間同士ですらそうであろう? もし国王が勇者を次期国王にすると言ったら、お前は信じるか?」
「いや、なにかの冗談だと思うだろうな」
「な? そもそも他人が言う突飛な発想は信じられぬのが当たり前なのだ。今はノー知識だった勇者が余から教わったために半分信じている状況だ。もし12人の魔法使いの誰かから魔法と魔力について教わり、深い知識を持っていたのなら、信じようとはしなかっただろう」
魔王は水を飲むと、「少し出るぞ」と言って外に出た。勇者に一人で考える時間を与るのと、招かれざる客を相手にするため――。
「……出てきたらどうだ?」
外に出た魔王は隠れている魔法使いに声を掛ける。
「おや、バレていましたか」
現れたのは黒いシルクハットを被り、左眼が緑で右眼が紫のオッドアイ。中性的な顔立ちの魔法使いである。
「隠れる気など無かろう。近くで一番気配が目立っておったぞ」
「はは、ボクは隠密行動が苦手でして。――お初にお目にかかります。ボクはトルマリンといいます」
「知っておるよ。トルマリン・エルデリッカ。西方生まれの魔法使いであろう」
「おや、これはこれは。ボクをご存知とは光栄ですね」
「12人の魔法使いに関しての情報は少ないが、トルマリンは魔族の間でも有名だ」
「ほほう」
「変幻自在、神出鬼没にして大胆不敵。要は面倒くさくて相手にしたくないとな」
「ははは! そうですね、面倒くさいとはよく言われますよ」
「それで? 余を殺しに来たか?」
「とんでもない。魔王を殺せないことは今、身を以て知りました」
聖属性による畏れ。魔王を前にするとどんな人間であろうと攻撃はできない。
「……なるほど、そういうことか。お前、今はどこにいる?」
「はい? ここにおりますが」
「惚けるな道化。余は魔王だぞ? いかに精巧かつ巧妙に作られていても、お前が実像を持つ分身であることは分かる」
「……これは驚きましたね」
トルマリンは声のトーンを一段低くした。魔王に魔法を看破され地が出たのである。
「他11人の中でも一人にしかバレなかったのに」
「ほう。一人か。12人の中で有能なのはどうやら二人だけのようだな」
「お気をつけくださいね。あの人は強い。それに容赦がない」
「妙なことを言うな。まるで余の味方のようじゃないか」
「いえいえ、そうではありませんよ。ボクは誰の味方でもありませんから」
「ほう? では国王ですら利用するか」
「はは、そこはさすがにノーコメントです」
「ふん。それで? 本体は余を攻撃できるのか?」
「いえ、残念ながら無理のようです」
「……」
魔王はトルマリンをジッと見つめる。しかしその瞳はトルマリンの先を見ているようだった。
「……なるほど。まあいい。貴重な情報を渡してやったんだ、早く共有してやれ」
「おや、いいんですか? そんな無防備で」
「なに?」
乾いた音が澄み渡る青空に響く。
「……さすが魔王ですね」
「言っただろう? 有能なのは二人だけだとな」
右側頭部に連なって止まった3発の弾丸をトルマリンに返す。
「それも研究材料にするといい。なにやら裏でコソコソと準備しているようだが、国王の策略など児戯に等しい。余は逃げも隠れもできぬからな、いつでも来るといい」
魔王は不敵な笑みを浮かべて家に戻って行った。
「……魔王か。恐ろしい方だ」
トルマリンがこの魔法、実像分身を見破られたのは3度目だった。
最初は魔法の師匠。高名な術師であり、当時は今ほど完成度が高くなかったのもあり見破られた。
それから研鑽を積み完成度を高めた結果、誰にも見破られることはなかった。ただ一人の魔法使いを除いては。
「実像分身ならあるいは、と思ったんですが……。なるほど、面白い仕事になりそうですね」
トルマリンは実像分身の技術を買われて12人の魔法使いに選ばれた。諜報活動が主であり、攻撃力はそこいらの学生にすら劣る。
そのため今回は実像分身による近距離での観察と他メンバーのサポートが主な仕事となる。
――35キロメートル離れた自宅にいる本体のトルマリンは魔法を解いて研究室へと向かう。
「さて、どう攻略しましょうか」
To be continued→
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