連れ去られたルーシー
「ラルドの魔術は相手が強いほど有利になる! 早く止めないと取り返しのつかないことになるぞ!」
「そんな……!」
だが、気配を察知したルーシーが「遅かったか」と呟くと、目の前にラルドが降り立った。
「……ラルド」
「魔王よ。迎えに来たぞ」
「貴様――!」
目の前に現れたラルドに応戦しようとしたサファイアをルーシーが止める。
「止めておけ。言っただろう」
「ほう? 俺の魔術を知っていたか」
「……勇者はどうした?」
「グカカカ! このボロ雑巾のことか?」
ラルドは意識を失った勇者を魔術で目の前に転送する。
「勇者!!」
「酷い……!」
「グカカカ!! これはこれは、まさか魔王が敵国の勇者を心配するとは。どうやら寝返った話は本当だったか。それとも洗脳されたか?」
「……お前の裏にいるのは誰だ」
「なに?」
「余を連れ戻し、自国内で裏切り者として処刑する。その筋書きを書いたのは誰だと聞いている!」
「ほう? まさかそこまで妄想を膨らませていたとはな」
「なんだと……!」
「俺は敵に囚われた魔王を連れ戻しに来ただけだ。さあ、どうする。ここで俺と徹底抗戦するか? 俺はそれでも構わないぞ。その人間も強そうだしな」
「……」
「来るのか来ないのか、ハッキリしろ!!」
「……っ。サファイア、世話になった」
「ルーシーさん!?」
「ほう、捕虜としての名はルーシーというのか。ならばルーシーよ、こちらに来い」
ルーシーは一瞬躊躇うも、ラルドのもとへ歩く。
「ルーシーさん!」
サファイアに振り向くと、「魔法を解除してくれ」と頼む。その目は悔しさに滲み、サファイアと勇者の身を案じていた。
制約魔法を許可なく解除するのは王命違反である。当然厳罰が待っている。しかし今12人の魔法使いに連絡を取ることはラルドが許さないだろう。
それに、敵の魔術がどんなものか分からない今、サファイアは下手に動けなかった。
「ルーシーさん、私はこれから動けなくなりますが、勇者様は必ずあなたを迎えに行きますよ」
「……」
サファイアは制約魔法を解除するボタンを押した。すると「許可のない解除を確認しました。警戒態勢に入ってください」と大きな警報が鳴る。
「うるせえ!!」
ラルドは警報を鳴らすコントローラーを魔術で破壊する。
「よし、行くぞ」
ラルドがルーシーを連れて転送魔術で移動したのを確認して、サファイアは勇者に駆け寄る。
「勇者様! 勇者様!!」
軽く揺り動かすが反応は無い。
「エメラルド! 早く来て!!」
サファイアな悲痛な叫びを通信で聞いたエメラルドはすぐにやって来た。
「サファイア! どうなさったのですか!?」
「勇者様が……!!」
普段は冷静沈着で頼れるサファイアが涙ぐんでいた。
事のあらましを聞いたエメラルドは勇者の装備と服を脱がす。
「なんて酷い……!」
胸は陥没し、皮膚は張り裂けて血だらけになっていた。息をしているのが不思議なくらいである。
「私が応急処置をします。早く先生を!」
「わ、分かった!」
涙を拭い、サファイアは宮廷医を呼びに行く。
「勇者様、死んだら許しませんよ!」
エメラルドは今まで詰め込んだ知識と培った技術の全てを使って勇者の救命措置を行った――。
* * *
――勇者は夢を見ていた。
「はぁー、やっと念願のスローライフ生活だ」
陽あたり良好な森の湖畔に建てた一軒家で寛いでいると、窓の外にルーシーを見つける。
「あれ? ルーシー、なにしてんだそんな所で」
ルーシーは何か言いたそうに叫んでいた。
「ルーシー聞こえないぞ?」
家から出ようとするが、ドアが開かない。
「なんだこれ? 建付け悪いのか? 勘弁しろよ新築だぞ」
ずっと叫び続けるルーシーの声を聞くため、勇者は二階の窓を開ける。
「ルーシーなにを――」
「今すぐに戻れ愚か者!!」
* * *
「――はっ!?」
気がついた勇者は、夢の中のルーシーを思い出す。あれは恐らく生死の境だったのだろう。ルーシーは自分を呼び戻してくれたのだと。
「ここ……は」
自宅でもなければキサヤ村でもない。見たことない部屋だった。起き上がろうとするが、身体に全く力が入らない。
「俺……どうしたんだ?」
記憶を辿る。キサヤ村で過ごした数日間、収穫祭でエメラルドとルーシーが言い争いをしていた。そしてサファイアやエメラルドと話して、魔族からの攻撃が来て――
「そうか、俺はラルドに負けて……」
そこまで思い出して、唯一動く顔を僅かに左に向けると、そこには椅子にもたれて寝ているエメラルドがいた。
「エメラルド……」
呟くと、エメラルドは目を覚ます。
「う……ん。おはようございます……。勇者様?」
「ああ……おは……よう」
「勇者様っ!?」
目を覚ました勇者に驚くエメラルドは、慌ててナースコールを押す。
「先生! 勇者様が目を覚ましました! 早く!!」
宮廷医を呼ぶと、エメラルドは「待っててくださいね! 今サファイアも呼びますから!」と言って部屋を飛び出した。
「サファイア……?」
サファイアはルーシーを保護しているはずだった。勇者が目を覚ましたら真っ先に飛んでくるのはルーシーのはずである。
勇者が倒れていて、サファイアだけが呼ばれる。それは想定していた最悪の結果になったことを意味していた。
「ルーシー……?」
断片化された記憶が一つずつ、ジグソーパズルを完成させるように合わさっていく。
そこへサファイアを連れてエメラルドが、一足遅れで宮廷医がやって来た。
「目を覚ましたか、まったく呆れた体力だな勇者は」
「はは……。ルーシーの時はお世話になりました。ところでルーシーは?」
勇者の中で、その記憶のパズルはほぼ完成していた。ただ一つだけ、ルーシーが殺されたかを知るのが怖かった。
「ルーシー? ああ魔王か。奴なら……サファイアが知ってるよ。最後を見届けたからな」
「最後……? サファイア、ルーシーはどうしたんだ? 魔法講座でもやってるのか?」
「……申し訳ありません。私の力不足で、ラルドに連れ去られてしまいました」
「……死んでないんだな?」
「はい。ラルドは瀕死状態の勇者様と私を人質に取り、ルーシーさんを連れ去りました」
「そう……か」
バッドエンドにはならなかった。が、それでも最悪のシナリオであることに変わりはなかった。
「連れ去られたのなら、連れ戻せばいい」
起き上がろうとする勇者を、宮廷医は「この馬鹿野郎!! 死にてえのか!!」と一喝する。
「生きてりゃ助けてやれる。だがな、死人は助けてやれねえんだよ!! 分かったか!?」
「……俺のせいなんだ」
「いえ、私の力不足で――」
「俺のせいなんだよ!! ラルドの魔術についてルーシーから聞いていれば、こんなことにはならなかった! 俺のエゴのせいで! 自分の力を過信して! 12人の魔法使いを巻き込んで! それでこのザマだ!! トルマリンからも警告されてたのに……ルーシーを守ってやるなんて言って、ルーシーに守られたんだ……!」
悔しさで泣く勇者の手を、エメラルドは優しく握り、涙をタオルで拭く。
「勇者様、12人の魔法使いは誰一人として巻き込まれたとか、迷惑だなんて思ってはいませんよ。それどころか、勇者様のことを認めていなかったジルコンは、今回の件を受けて評価したようです」
「……評価?」
「未知の魔族に対して敢然と立ち向かい、街への被害を最小限に留めた。国に大きく貢献したと国王陛下に報告したようです」
「俺が……貢献した……」
「あのルビーも、勇者様への評価を改めたようです」
「ルビーさんが……」
「それに、今回の作戦については情報漏洩を防ぐためルーシー様には知らせず行う。その最終決定を下した、判断したのはアリストリア王国総司令官です」
「そうですよ。全部自分の責任だなんて、ルーシーさんがいたらきっとこう言うでしょう」
「「勇者は自意識過剰だな」」
サファイアとエメラルドはハモると、お互いに笑う。
「そういうことだ。分かったら大人しく治療に専念しろ。次また馬鹿なことしようとしたら俺が殺すぞ」
「ははは……大人しくしておきます」
「じゃあな」
サファイアとエメラルドも、それぞれ報告や仕事があるからと帰って行った。
「ルーシーを助け出す、か」
ほんの数ヶ月前、勇者は魔王を倒すために魔族の国へ行ったのに、今度は囚われの姫ならぬ囚われの魔王を助けに行こうというのだから、人生何があるか分からないものである。
「待ってろよルーシー。今度は、今度こそは俺が守ってやる!!」
決意を新たにする勇者であった。が、その裏では重要な決定が下されようとしていた――。
To be continued→
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