波乱の収穫祭 前編
波乱の収穫祭 前編
キサヤ村に滞在して欲しいと聞いた勇者はどうなる事かと思っていたが、村の人は皆温かく迎えてくれて居心地良く過ごしていた。
そして、いよいよ収穫祭が始まる。
「勇者様ー!」
「エメラルドさん! お元気でしたか?」
「もちろんです! 収穫祭、ご一緒しませんか?」
王都に着いた勇者に対して早速腕を組んでアピールするエメラルドに、「ダメだ。今日は余と楽しむのだ」とルーシーは応戦する。
「でも、ルーシー様の制約魔法がバレる恐れがありますし」
「フフハハハハ、余は魔王だぞ? それくらいどうとでもなる」
「じゃあ、三人で行けばいいじゃないか?」
「勇者様は少々お待ちを〜」
「勇者は黙っていろ」
「お、おう」
二人の迫力に気圧された勇者は少し離れた。
「エメラルドにも困ったものですね」
「なーんか絡んでくるんだよなぁ……って、いつの間に居たんですかサファイアさん」
「サファイアで結構ですよ、勇者様」
「でも、俺だけタメ口なのも変じゃないかな?」
「良いのですよ。私がそう望んでいるだけですので」
「なんでか訊ねるのは野暮なんだろうな」
「ふふ、そうですね」
サファイアと話しているのも気づかずに、エメラルドとルーシーは女の戦いを繰り広げていた。
「収穫祭、間に合いましたね」
「ああ。こき使われたよ」
「ふふ。勇者様は働き者だと聞いてますよ」
「まったく冗談じゃない。俺はゆっくりのんびりスローライフを楽しみたいんだ」
「スローライフですか?」
「ああ。魔王を倒したら報奨金でスローライフの予定だったんだが、なんの因果か魔王と一緒にスローライフだよ。ま、おかげでアシルの料理を毎日食べれるけどな」
「いいな……」
「ん?」
「いえ、なんでも。本来はお一人でスローライフを送る予定だったのですか?」
「そうだよ」
「では自炊を。勇者様の得意料理はなんですか?」
「……ベーコンエッグ」
「え?」
「ベーコンエッグだよ。俺は料理スキルが無いんだ」
「まあ、そうなんですか。まさか毎日ベーコンエッグ生活をするつもりでしたか?」
「いや、さすがに毎日じゃな……。時々王都で美味しい料理食べるつもりだったよ」
「それは……アシルさんがいて良かったですね」
サファイアの哀れむような視線に「ああ、おかげさまでな」と返す。
「でしたら、料理上手な女性とご結婚なされては?」
「それもありだなー。でもそんな知り合いはいなんだよな」
「そうなんですか? モテそうですのに」
「はは、ありがとう。でもサファイアのほうがモテるんじゃないか?」
「私……ですか?」
「可愛くて優しくて頼れる。理想的な女性だと思うけど」
「あ、ありがとう……ございます」
普段、仕事ができる。優秀。美人。などとお世辞を言われて辟易していたサファイアにはクリティカルヒットだったが、勇者の鋭い勘はこういう時には働かないのである。
「そういえばサファイアは料理するの?」
「えっ? あ、はい少しは」
勇者ほど酷くはないが、あまり自炊はしないサファイアは控えめに答える。が、勇者は容赦なく追撃する。
「へー、そうなんだ。サファイアの料理食べてみたいな」
「え!? な、なんででですか?」
「だって、サファイア料理上手そうだし」
「ええ!?」
なぜか勇者の中で膨れ上がるサファイアへの期待。ここで「実はあまり料理できなくて」と一言伝えれば丸く収まるのだが、軽いパニック状態のサファイアは――
「で、では今度家に来ませんか?」
「いいの?」
「はい! 腕によりをかけてご馳走しますので!」
自爆してしまうのであった。さらに勇者は「じゃあ今度ルーシーと行くよ」と10t爆弾を投下する。
「るるルーシーさんとですか!?」
「あー、都合悪いかな?」
もしここで勇者だけと言ったら好意を持っていることが分かってしまう。かといってルーシーを招くと、勇者と違って多方面に勘が鋭くアンテナも広いため、実は料理が上手くないということがバレる恐れがある。
今までどんな困難な任務であっても即断即決してきたサファイアは、経験したことのない女としての葛藤と逡巡の果てに結論を出す。
「……いえ! 大丈夫です!」
「そっか! じゃあいつにしようか?」
「きゅ、休暇が! 収穫祭のあと休暇がありますので、また連絡致します!」
「分かった。楽しみにしてる」
自宅で手料理を振る舞うことになってしまったサファイアは、休暇が休暇ではなくなってしまった。
そんなサファイアの危機など知る由もない勇者は、「おい、お前らいい加減にしろよ」と、エメラルドとルーシーの戦いを止めに行った。
「エメラルドさんもルーシーも落ち着け」
「でしたら、私と感謝祭を!」
「いいや、勇者は余と感謝祭するのだ!」
「あのな、ルーシーはキサヤ村でなにを学んだんだ?」
「む」
「大地の恵みと作物への感謝のためにある祭りだぞ。それに王都には多くの人たちがいる。楽しみに来てる人たちに迷惑を掛けるな」
「……すまん」
「エメラルドさんも、12人の魔法使いとして、最高位魔法使いとしての立ち居振る舞いがあるんじゃないですか? お祭りを楽しみにしてたのは分かりますが、みんなで楽しみましょうよ」
「……はい。すみません」
二人が落ち着いたところで、立ち直ったサファイアが合流する。
「仲裁ありがとうございます勇者様」
「せっかくの祭りだからな」
「勇者様? いつからサファイアとそのように親密な仲に……」
「いやこれは――」
「私がお願いしたんですよ。さん付けも敬語も要りませんと」
「サファイアがそう言ったのか?」
「ええ。勇者様と円滑な関係を築くためにそうしていただいてます」
「そうだったのか」
「で、では私のこともエメラルドと!」
「エメラルドさんも?」
「はい!!」
グイグイ迫るエメラルドに気圧された勇者は「わ、分かったよ!」と了承する。
「面倒だ。12人の魔法使い全員を呼び捨てにすればよかろう」
「いえ、そういうわけには……」
「気難しい方もいますので」
「ふむ。面倒なことだ」
「でも確かに、ルビーさんを呼び捨てにしたら怒られそうだ」
ルーシーのモヤモヤは解消されたが、収穫祭は波乱(?)の幕開けとなった――。
To be continued→
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