秘密研究所
――深夜の王国立魔法学院。
トルマリンは自分の目で確かめるため、ルーシーの言っていた魔法学院に来ていた。
「魔法学院に地下はないはず……」
トルマリンは調査する前に念のため設計図を確認した。が、地下室の記載はなく、特に怪しいところは見当たらなかった。
逆に言えば、地下室があったら12人の魔法使いにも秘密にされた研究所があるという事になる。
「地下室ということは、下……ですよね」
しかし魔法学院全体はかなり広く、建物外の敷地もある。それら全てを調査していたら夜が明けるどころか何ヶ月も掛かってしまう。
そこでトルマリンは魔力の流れを分析することにした。地下があり、研究所があるのであれば必ず大きな魔力の流れがある。そう考えたのである。
「……当たりですね」
地下にある魔力路が不自然に下へ曲がっているのを見つけると、その直上へ向かう。
「ここは……倉庫? なるほど、ここなら荷物に紛れて入り口は分かりづらく、誰も出入りを気にしない」
魔力路が下りているのは奥にある壁の向こうだった。周辺の壁を探ると魔力認証のパネルを見つける。
人間の魔力は指紋のように人それぞれに特徴があるため、個人認証にも使われている。それが倉庫の壁に隠されているということは、見られたくない何かがあるという証拠である。
「ふふ。簡単ですね」
諜報員であり情報統括者であるトルマリンにとっては、自国のセキュリティを突破するなど朝飯前であった。
壁の一部がスライドして開くと、エレベーターがぽっかりと口を空けた。
「はは……。隠す気があるのか無いのか」
エレベーターに乗ると地下へと潜る。階数表示はなく、しばらくすると扉が開いた。
「随分と明るいんですね」
秘密の地下施設は白を基調としていて、照明が煌々と照らしていた。
「この照明も龍穴から吸い上げた魔力なんでしょうか?」
秘密の地下空間。ここを発見した時点でルーシーの言ってる事を裏付けるのに十分ではあったが、トルマリンはもうしばらく調査を続けようと歩き出す。と、身体に違和感を覚えた。
「これは……」
思うように動けない感覚。トルマリンは小さく舌打ちすると調査を打ち切った。
「――ふぅ」
実像分身の魔法を解除するとため息を吐く。
「魔力妨害があるとは……。あの不自然に真っ白な施設は魔力を通さない材質で出来ているのか」
トルマリンが把握していない新素材。侵入者防止のためだろうが、これではまるでトルマリン対策である。
「しかし、まさか本当に存在するとは……。王国立魔法学院の秘密地下研究所。ちょっと行って確認するだけのつもりだったんですが、これは本格的な調査になりそうですね」
* * *
「勇者よ」
「なんだ?」
魔族退治が終わった勇者は草原に寝転がっていた。そこへやって来たルーシーはフードとマスクを外す。
「どうした?」
「この素顔は、勇者にしか見せておらん」
「え? ああ、そうだな」
「だから、責任とって結婚しろ」
「……はあ!?」
「子どもは3人欲しいな」
「ちょ! なに言ってんだお前は!?」
「勇者は余を愛していないのか?」
「そっ! それは……だな」
「余は勇者のことが大好きだ!」
夜中に「ルーシー!?」と叫んで飛び起きる勇者。幸い個室なので誰にも聞かれてはいなかった。
「はぁ、はぁ……夢か」
「どんな夢だったんですか?」
「うわぁ!?」
「静かに。皆さん起きてしまいますよ」
「お前が言うな!!」
小声でトルマリンの頭にチョップする。
「あはは、やっぱり勇者様のツッコミはキレが違いますね」
「はあ? なに言ってんだ。……で、なんの用だ?」
「実は、とある情報筋から聞いた話を確かめに王国立魔法学院へ行ってきました」
「なんだその情報誌みたいな表現。で? なにを確かめたんだ?」
「王国立魔法学院の地下には秘密研究所がある、と」
「へー、面白そうだな」
「ええ、実に面白い事が分かりましたよ」
トルマリンから施設に侵入し、直後脱出した事を聞いた勇者は真顔になる。
「その研究所はなにしてるんだ?」
「詳しくはまだですが、そこに証拠があるらしいんですよ」
「なんの?」
「魔法兵器の本当の仕様書です」
「魔法兵器?」
「国家魔法はご存知ですね?」
「ああ。国王陛下、それに俺とルーシーに掛けられてる制約魔法だろ?」
「この国には他に2つ国家魔法がありまして、その一つが魔法兵器なんです」
「へー、ラルドが攻めて来たら使わせてもらうかな」
「それを止めて欲しくてお願いに来ました」
「使うなって? なんで」
「その魔法兵器は、本当の仕様書にある通りであればこの世界を滅ぼしてしまうからです」
「なに!? そんなに強力なのか?」
「ルーシー様から魔力については聞いてますか?」
「ああ。各国に魔力消費を抑えるよう働きかけたとか」
「この国の魔法兵器は、数発撃つだけで世界のエネルギーを枯らしてしまう程に魔力を消費するんです」
「マジか」
珍しく神妙な面持ちのトルマリンを見て、勇者はその話に真実味があると感じた。
「けどよ、その兵器を使うのを決めるのは国王陛下だろ? なんで俺に言うんだ?」
「だって、勇者様がラルドを倒してしまえば魔法兵器など使う必要はないでしょう?」
「……はは! 言うじゃねえか。いいぜ、元よりそのつもりだったしな」
「それと、この話は内密にお願いします」
「なるほど、12人の魔法使いにも秘密ってことか。分かった」
「では、ご協力いただくお礼に一つ良いことを教えましょう」
「なんだ?」
「ルーシーは勇者様のことを嫌ってなどいませんよ。今はご自分のお気持ちに戸惑っているだけです」
「自分の気持ち?」
「ですから、勇者様はいつも通りに接してあげてください」
「……分かった」
「では、おやすみなさい」
トルマリンが去ると、すっかり目が覚めてしまった勇者は装備を持って外に出る。
月明かりの下、剣を構えて目を閉じ集中する。深く呼吸してオーラを膨らませていく。
「……」
カッと目を開けると仮想敵を斬る。襲い掛かる魔族の間で軽やかに立ち回り翻弄する。
「ハッ!」
技は使わず基本的な剣技と体術のみで戦う。勇者スキルはオーラに依存するため、普段からできるだけオーラを使わない戦い方を頭と身体に覚えさせていた。
「はぁ、はぁ」
気づけば空が白み、朝になろうとしていた。
「ふぅー」
最後にオーラを剣に纏わせると、勇者スキルを発動する。
「オーラブレード!!」
剣を媒体としてオーラによる巨大な刀身が現れる。それを地面に振り下ろすと、ドーン! と大きな音がして、何事かと村長が家から飛び出した。
「ゆ、勇者様、これはいったい……」
「ん? ああ村長、おはようございます。日課の訓練がてら畑の畝づくりをね」
そう言ってオーラブレードを等間隔で地面に打ちつける。
「よしっ」
「これはまた、えらく力技じゃな」
「はは! 思いつきにしちゃ上出来でしょう」
「勇者よ、朝からどうしたのだ」
「ようルーシー、ちょっとした思いつきを試したんだよ」
「ほう。勇者は働きたくないのではなかったか?」
「もちろん。俺はゆっくりのんびりスローライフを満喫したいんだ。――ルーシーとな」
「……そうか」
勇者はいつものようにルーシーの頭に手を伸ばす。ルーシーもその気配を感じ取るが、今度は逃げないよう意識する。と、勇者の手は優しくルーシーの頭を撫でた。
「よし、朝ごはんだ!」
「おう。今日も一日がんばるか!」
To be continued→
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