ルーシーの違和感
――城内 国王執務室。
「うーむ。これはなかなか」
「エッチな本でも見てるんですか?」
「そうそう、このヒップラインがなんとも……って、ワシをなんだと思ってるの?」
「執務中失礼致します」
「執務中っていうかキミの言動が失礼なんだけどトルマリン君。それで?」
「魔族側に動きがありました」
「ふむ。いよいよ動くか。誰だ?」
「ラルドという上位魔族のようです」
「上位魔族か……。また戦争になるな」
「我々も動きますか?」
「そうだな……。休暇は予定通りでよい。その後は総司令官と調整して半数を動かすよう伝えてくれ」
「分かりました」
「他に報告はないか?」
「はい」
「では下がって宜しい」
トルマリンが去ると、国王はもう何度目か分からない戦争にため息を吐く。
アリストリア王国は人間相手よりも魔族との戦争が圧倒的に多い。それというのも、魔界との連絡橋が開いたのはアリストリア王国だからである。
以来300年以上も魔族との争いは絶えない。魔族が侵入して来た当時は、他国もアリストリアに侵攻する好機と捉えて幾度か戦争を仕掛けて来たが、近年では大きな戦争はない。
というのも、魔族の侵攻が集中するアリストリアは戦略的要衝となっているからだ。下手に侵攻するよりも、アリストリアに頑張ってもらおうという各国の狙いがあるのである。
「魔王さえ倒せれば……」
国王の策略は今のところ上手く進んでいた。しかしここに来て葛藤が生じている。ルーシー魔法講座である。
国民、特に貧困層や平民からの評判がすこぶる良く、今や魔法使いを目指す人間の間では知らない者はいないほどの人気講師である。もしルーシーがいなくなったら、それはもはや王国にとっての損失に他ならない。
城内からは、上級魔法使いに講師をさせればいいのでは。という意見もあるが、上級にやらせればいいという訳ではない。
教え上手で明るいキャラクター。受講生への態度や配慮など、その人間性が人気なのである。
ルーシーの代わりはいない。その事実が国王を悩ませる。
「奥の手は使いたくないのぉ。あの作戦が成功すれば一番なんだが……」
悩む国王は再び執務へと向かうのであった。
* * *
「許可が下りない!?」
数日後、サファイアから通信機による連絡が入った。それよると魔石の利用許可が下りなかったと言う。
周りに人がいないのを確認しながらも、勇者は小声で話す。
「どうしてですか?」
〈魔石の精製には時間が掛かるそうです。以前に比べるとかなり短縮できるようにはなったのですが、それでも9日。一度に精製できる量も少ないため、優先される軍事利用分の精製だけでも数ヶ月は掛かるそうです。なので、収穫祭までには間に合いそうにありません〉
「そうですか……。ちなみにそれ以降であれば許可は下りるんでしょうか?」
〈はい。それはお約束できます。すでに私の方からも予約をしておきました〉
「ありがとうございます」
〈ルーシーさんと村長を落胆させてしまうのは大変心苦しいのですが、よろしくお伝えください〉
「サファイアさんは多忙な中でよく動いてくださいました。感謝してますよ」
〈そう言ってくださると救われます。……勇者様〉
「はい?」
〈私のことはサファイアで構いません。それと敬語でなくて大丈夫ですよ〉
「え? でも、いいんですか?」
〈はい〉
「わ、分かった。じゃあ、ありがとうサファイア」
〈はい。失礼します〉
通信を切ると、勇者はため息を吐く。
「はぁ、気が重いな……」
勇者は話があると言って農作業中の村長と、子供と遊ぶルーシーを呼んで人気の無い木陰に行くと、サファイアから聞いた話を伝える。
「すみません」
「いやいや! 裏を返せば数ヶ月後には配備してもらえるんじゃろ? これはまさに希望じゃよ!」
「うむ。今季を乗り越えれば、来季は負担が大きく減るのだ。サファイアに感謝だな!」
「ああ。サファイアには二人に代わって感謝しておいた」
「む?」
「どうした?」
「……いや、なんでもない」
こころなしか不機嫌に見えたが、勇者には分からなかった。
「ところで新居はまだなのか?」
「あー、魔石の件で忘れてたな」
「サファイアに聞いてみたらどうだ?」
「いやいや、さすがに確認のためだけに通信するのは迷惑だろう」
「分からんぞ? 勇者の通信を待っているのではないか?」
「なんでだよ?」
「だから勇者はモテないのだ」
「うっさいなぁ」
「はっはっは。若いとは、良いものじゃなぁ」
「村長までなに言い出すんですか……」
「とにかく、魔導具は楽しみにしております。お二方、改めて深く礼を言う」
「いえ、俺はなにも。ルーシーのアイデアのおかげですよ」
「フフハハハハ、褒め称えろ」
村長は「では仕事がありますので」と作業へ戻って行った。
「勇者は行かんのか?」
「俺はちょっと用があってな。ルーシーはどうするんだ?」
「ふむ。魔法講座でも開くか」
「ここでか?」
「魔法が使えなくても座学ならできよう」
「そっか。やっぱりルーシーはルーシーだな」
勇者が頭を撫でようとすると、「ではな!」と去ってゆく。
「なんだ?」
いつもと様子が違うルーシーに違和感を覚える勇者だが、それよりも用事が優先だった。
「……いるんだろ? トルマリン」
「おや、バレてましたか」
勇者の後ろ、木の陰からトルマリンが現れる。
「なんの用だ?」
「さすがに勇者様も慣れてきましたねー」
「トルマリン」
「……ルーシー様から聞いた上位魔族ラルドが動きました」
「来たか……」
「ルーシー様にお伝えしなくていいのですか? わざわざ一人になられるとは」
「ラルドは俺が倒す」
「……一応警告しますが、上位魔族は戦闘力においては魔王に匹敵する実力者です。勇者様は確かに強い。ですが、やはり自殺行為に思えてなりません」
「うっせえ、分かってんだよそんなことは。なんのためにお前に頼んだと思ってんだ」
「ふふ。ルーシー様にわざとらしい嘘をついてまで隠されてましたよね」
「言えるかよ。12人の魔法使いと任務やってたなんて」
勇者は勘が鋭い。それは勇者スキルではなく天性のものであり、今の今まで生き抜いてきた最大の要因である。その勘がある日働いた。魔族の侵攻である。
「勇者様に言われても半信半疑でしたが、まさか本当に攻めて来るとは」
「念のためルーシーに確認したんだけどな、中には愚かな奴がいたみたいだ」
「勇者様のおかげで安全に対処できました。ありがとうございます」
「それで? ラルドはいつ来るんだ?」
「早ければ収穫祭のあと、すぐにでも」
「そっか。じゃあ、ルーシーのことは頼んだぞ」
「どういうことです?」
「なんか、ルーシーに嫌われてるみたいなんだよ」
「まさか。勇者様の勘違いでは?」
「知ってるだろ? 俺の嫌な勘は当たるんだよ」
「分かりました。勇者様はどちらに?」
「もうすぐ魔族が来るから、歓迎しに行ってくる」
じゃあな、と勇者は走って行ってしまった。
「まったく、よく働くじゃないですか。いつスローライフするんですか?」
働きたくない勇者は、今日もまたルーシーのために勇者として働くのであった。
To be continued→
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