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勇者は働きたくない!!  作者: そらり@月宮悠人


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健康的な魔王

健康的な魔王

 ――アリストリア王国。


 風光明媚な土地が多くあり、木々や花々が彩る世界的にも美しい国である。

 そんな王国の辺境に木造の一軒家があった。


「おい」

「うーん……」

「おい、起きろ勇者!」

「……なんだよ、もう朝か?」 

「そうだ! 飯を作れ!」


 勇者のベッドに乗ってビシッと顔を指さす。

 

「……おいまだ朝6時だぞ」

「なにを言っている? 陽が昇れば朝であろう」

「……お前な、魔王がなんでそんな健康的なんだよ。魔王城なんか分厚い雲があっただろ」

「あれは魔術で作った開閉可能な雲だ」

「は?」

「探知妨害、魔力増強、闇属性攻撃力アップ、全属性耐性など様々な機能が――」

「ちょ! おい待て待て待て!!」

「なんだ?」

「なんだじゃないだろ! なんだそのチート魔術は!? それじゃなにか? 俺たちは1.5倍強い相手と戦ってたってことか!?」

「正確には1.8倍だ」

「やかましい! なお悪いわ! 勝てるわけないだろ!!」

「それでも勇者、お前は余を追い詰めた」

「……まぁ」

「今の今まで、余にあの秘術を使わせた者はおらん。勇者の言うようなチート魔術であれば秘術など編み出す必要あるまい? わざわざ秘術を研究したのは勇者、お前の存在だ」

「俺の?」

「勇者の存在は前から知っておった。偵察の魔族が常に脅威を知らせてくれるからな。その中にあって勇者の脅威は群を抜いておった。近い未来必ず余と対決すると確信した」

「ちょっと待て。一体いつから俺を見ていたんだ?」

「そうだな……。齢3つの頃か?」

「そ、そんな昔から……」

「ふん。余は魔王だぞ? それくらい見抜くのは容易い」

「でもだったら、どうしてその時に俺を殺さなかったんだ? 危険な芽は摘むべきだろう」

「お前たちの王が城から動かないのと同じく、余も気軽には動けぬ。それに、返り討ちにする自信はあったからな」


 魔王は勇者のベッドから降りると、「腹減った。飯だ」と言って一階へ下りて行った。


「……まったく。あんな(なり)してても魔王は魔王なんだよな」


 勇者は着替えながら先日の謁見を思い出す。

 国王の力を一目(ひとめ)で見抜き、策略を看破した。それを考えると勇者の素質を見抜いた事も頷けた。


「あれから3日か。しかし王様もとんでもないこと考えるもんだ……」


 まさか魔王と共同生活することになるとは、勇者は思ってもいなかった。さすがの魔王も予想外だったに違いない。

 一階に下りてキッチンに行くと、フライパンをコンロに置いて着火棒で炭に火をつけベーコンを放る。


「はあ、まさか魔王討伐後に魔王の保護観察とはな……」


 勇者は、弱体化した魔王を国王に引き渡せば後はなんとかしてくれるだろう。と考えていた当時の楽観的な自分を殴りたい思いだった。


「良いではないか。城には及ばぬが、ここは余に相応しい住居だ。生活費とやらも支給されるのであろう? 余も体を休めねばならぬ。丁度良い休暇と考えろ」

「バカヤロー、俺は家事一切とお前の面倒見ながら活動報告までしなきゃならないんだ! どこが休暇だ」


 とはいえ、勇者もこの家には驚いた。2階建ての2LDKで日当たり良く、断熱性能も高いためオールシーズン快適に過ごせる。

 魔王は空き家で事足りると言っていたし、勇者もそれで十分だと考えていたのだが、それでも勇者が空き家に住むのは如何なものか。と、総司令官が家を用意してくれたのである。

 

「活動報告と言えば、今朝魔法使いが来たぞ」

「なに!?」

「実際に魔王というものを見に来たと言っておった。勇者は寝てると言ったら『よろしくお伝え下さい』だとさ」

「ご近所付き合いかよ……」


 それでもあわよくばと考えていたようだが、国家魔法を創った魔法使いであっても、やはり聖属性相手は戦えないらしく去って行ったという。


「そりゃそうだ。そもそも勇者である俺が攻撃できないんだからな」

「そういえば勇者は畏れるといった感じではなかったな。なんというか……いたいけな幼女に手を出してはいけない?」

「誤解を招くような言い方をするな!!」

「誰に誤解されるのだ?」

「見てる人たちにだよ!」

「……あー、確かに魔法使いの気配がするな。早速観察とは仕事熱心なことだ」


 調理したベーコンエッグとパンとスープを魔王に出すと、勇者は対面の椅子にドカッと座る。


「勇者は食べないのか?」

「朝はな」

「いかんぞ、朝食は一日を始める大切なエネルギーだ」

「だからなんで魔王がそんなに健康的なんだよ!」


 調子が狂うとボヤく勇者は、ふと思い立ったように「そういや名前決めないとな」と呟く。


「名前?」

「国王陛下から魔王とバレないようにって言われてんのに、魔王じゃ困るだろう。ていうか魔王は名前ないのか?」

「余の名は人間には発音できんよ。ふむ……。ならテキトーに考えておけ。余は名に拘りはない」

「そうか、ならチャッピーでいいか」

「いいわけあるかぁー!!」


 魔王は両手でテーブルを叩いて立ち上がり抗議する。


「テキトーにって言ったろ」

「そういう意味ではない! なんだチャッピーとは! 余はペットか!」

「魔王がペットか、なんか面白いな」

「面白くない! まったく……。仮にも少女なのだ。女の子らしい名にしておけ」

「はいはい。考えておくよ」


 朝食を終えた魔王は「それにしても勇者の料理スキルは随分と低いな。パーティには他に料理人がいたのか?」とダメ出しする。


「まあな。俺は勇者としてのスキルに全振りしてたし、あいつらに出会うまでは乾パンで十分だと思ってからな」

「そんな栄養管理のなってない勇者に追い詰められたのか余は……」

「栄養管理がしっかりしてたって、才能もスキルも無ければ魔王城に辿り着くことすらできないだろ」

「む。たまには正論を言うではないか」

「うっせえ」


 勇者は名前を考えるが、どうにもイマイチ浮かばなかった。そこで散歩に出掛けようとする。


「……おっと、魔王忘れてた」

「忘れ物みたいに言うでない。それにどうせ制約魔法が掛かっておる。勇者に付いて行かざるを得ぬ」

「そういやそうか」


 魔王が自由を得るための条件である勇者同伴の制約。国王に掛けられた制約魔法と同じ類のもので、勇者を中心に一定範囲の魔法フィールドが常時展開されている。

 フィールドは壁のような役割を果たしているため、フィールド外には物理的に出られないようになっている。もし魔王が動かず勇者が行動した場合は、見えない壁に押される形で強制的に移動させられる。


「でもこれって、もし壁を挟んで移動したら魔王が押し潰されるんじゃないか?」

「奴らがそんな初歩的なミスを犯すと思うか? 制約範囲を最小まで絞ってみろ」

「えーと、確かこのアイテムで……」


 今回の制約魔法は範囲設定が非常に難しいため、勇者の一存で範囲を変更できるアイテムが渡されていた。


「このダイヤルを回せばいいのか」


 アイテムのダイヤルを回すと約1メートルまで縮小される。


「見ておれ」

 

 そう言うと魔王は玄関ドアを開けて外に出るとドアを閉める。


「動いてみろ」


 勇者は「大丈夫か?」と呟きながらもゆっくり歩く。すると……。


「あっ!」

「こういうことだ」


 玄関ドアにぶつかったはずの魔王はドアをすり抜けた。


「すごいな……」

「この制約魔法は行動範囲を限定するだけのように見えて、その実は複雑にできている。破られぬよう十重二十重にセキュリティがあり、こうした事態にも備えられている」

「魔王は分かっていたんだな、すり抜けられるって」

「いや? どういう機能かは分からなかった」

「いや分からないで試したんかい!」

「分からずとも推測はできる。それに、魔力の大半を失い、こんな姿になってしまってはいるが……。この程度の物理的障害であれば余が圧死することはない」

「意外と頑丈なのか」

「余は魔王だぞ? この程度で死ぬものか」

「じゃあ俺は好きに動いていいってことだな」

「だからといって、好き勝手に歩き回るな。もし離れるのなら範囲を最大にしておけ」

「そうだな、最小じゃ窮屈だ」


 勇者はアイテムの範囲リセットボタンを押す。すると初期設定の範囲に戻った。


「ふん。()()()()()()()()か。あの国王(タヌキ)め」


 二人が家を出て、散歩に行こうとした時だった。

 乾いた音が晴天の青空に響き、魔王は倒れた――。



 To be continued→

最後まで読んで頂いてありがとうございます。

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