魔力断層
勇者には様々な特権がある。アリストリア国内の宿泊費割引、武具の優先オーダーメイドなど。
しかし、働かなくて良い特権はない。
「勇者様、手伝ってくだされ」
「はーい!」
「勇者殿、こっちを」
「はい!」
「勇者様ー!」
「はいはーい!」
二日目にして勇者は瀕死になっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、なんで、こんな忙しいんだ!」
「ここキサヤ村は王国の食糧の3割を担っておるんじゃよ」
「村長さん……どうりで広いわけだ」
「勇者殿が来てくださって助かりました。毎年この時期は忙しくなりますので」
「……そうか、収穫祭」
「ええ。ここは魔法が使えないもので」
「魔法が使えない?」
「魔力断層とかいうものがあるらしくてな」
「魔力断層?」
「魔力断層とはな!」
ひょっこり現れるルーシーに勇者は驚いてひっくり返る。
「なにをしておるのだ?」
「お前がいきなり現れるからだろうが!」
「勇者が困っていそうだったからな」
「うっ……それで、魔力断層ってなんなんだ?」
「この世界に満ちる星の魔力は時に乱れることがある。大概は一時的なものだが、この地のように継続的に乱れる特異な地域も存在するのだ。そういった特異な乱れを魔力断層と言う。魔力がほとんど無いために魔法も魔術も使えないのだ」
「なんでそんなに乱れるんだ?」
「この地で言えば、そうだな……王都と地脈に挟まれているのが大きな要因だろう」
「そういえば、魔力断層の調査をしに来た魔法使いもそう言っておったわ」
「どういうことだ?」
「地脈とは大地を流れる大きな魔力の通り道だ。その地脈が太く集中する土地がこの世界にはいくつかあり、そこは龍穴と呼ばれ豊富な魔力が得られる。王都はその龍穴の上にあるのだ」
「なっ!?」
「世界有数の魔法大国と言われる所以だな。龍穴の上に王都があると、どうなると思う?」
いきなり質問された勇者は少し考えてから「どうって、豊富な魔力が得られるんだろ?」と答える。
「勇者にはまだ早かったか」
「うっさい!」
「……魔力が拡散されるんじゃな?」
「正解だ。さすが村長だな。勇者にも分かりやすく言えば、焚き火に鍋を置くようなものだ。火はどうなる?」
「鍋に押し潰されて広がるな」
「そうだ。地脈の魔力は地脈に戻ろうとする性質がある。そのため押し潰されて広がり拡散した魔力は、この村を避けるようにして向こう側の地脈へと戻ってゆく。そして龍穴の魔力は王都が吸い取る。つまり、ここは意図せず人工的に作り出された魔力断層なのだ」
「そうだったのか……。あれ? でもそしたら王都の周りは断層だらけになるんじゃないか?」
「うむ。良い質問だな。実は自然界における魔力断層というのは連続はしないのだ」
「自然界? 今人工的に作り出されたって言ってなかったか?」
「ふむ。少し語弊があったか。この場合の人工的というのは建造物のことだ。ついでに説明すると、魔術でなら連続した断層帯を作り出すことができる」
勇者はいつものように感心して聞いているが、村長は目を丸くする。
「さっきから思ってたが、えらぁ賢い子だな」
「はい。実はこの子、上級魔法使いなんですよ」
「じょ、上級じゃと!?」
上級は魔法使い人口250万のうち0.2%しかいない実質的なトップである。この可愛らしい少女がその上級だと聞いた村長は信じられないでいた。
「ルーシー、見せてやれ」
「うむ!」
杖から投影された証明IDを確認すると、「こりゃあたまげたな」と村長は唸る。
「なんとか魔法を使えるようになりませんか。今では若い衆も少なく村は存続の危機なんじゃ」
「ふむ。それなら魔導具を使うのはどうだ?」
「魔導具だって魔力が要るだろ?」
「今の魔導具は技術が進んでおる。結晶化した魔力で動かすものもいくつかある」
「魔力って結晶化できるのか!?」
「理論自体は100年ほど前にあったらしい。実用化されたのはつい最近だ」
「だけど、農業に使える魔導具はそもそも少ないぞ」
「問題ない。頼れる魔法使いがいるではないか」
「ははは……」
* * *
「魔石で動く農業用魔導具ですか」
勇者はダメ元でルーシーから相談したい事がある。とサファイアに伝えたら、なんと直接視察にやって来た。
「うむ。キサヤ村ではアリストリア王国の食糧の3割を担っておるというのに魔力断層のせいで魔法が使えず若者も少ない。そこでだ。魔石で動く農業用魔導具があれば負担は減り、生産性は上がる」
「なるほど……」
サファイアはキサヤ村と広大な畑を見て回り、実際に魔法が使えない事なども確認すると、村長に話を聞く。
「はじめまして、サファイア・イーザスといいます」
「ようこそ、いらっしゃいました。サファイアさんも魔法使いなんかね?」
「はい。ルーシーさんから話を聞いて視察に参りました」
「それはそれは、ご苦労さまです。どうじゃろうか?」
「一通り見て回りました。確かに魔力断層があり魔法は使えませんね。研究中の技術を用いた魔導具の試験運用として農業用魔導具を配備するよう働きかけてみましょう」
「本当ですか!?」
「ええ。キサヤ村はアリストリア王国の食糧生産の要です。できる限り力になります」
「ありがとうございます……!!」
サファイアから前向きな返事を聞いた村長は大喜びで、ルーシーにも何度も礼を言った。
「本当にありがとうございます!!」
「礼を言うのはまだ早いぞ。魔石はまだ実用化されて間もない技術だ。総司令官と国王陛下の判断次第だな」
「それでも、希望が見えただけ嬉しいのじゃよ。今日はお礼に食事を振る舞おう」
「余はフレンチトーストが食べたい!!」
「こら図々しいぞ」
「よいよい。フレンチトーストはワシも好物だからな!」
「おー! 村長気が合うではないか!」
「やれやれ……」
こうしてキサヤ村は一足先に収穫祭のような賑わいを見せたのであった。
To be continued→
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