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勇者は働きたくない!!  作者: そらり@月宮悠人


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魔王の野望

「おーい! 勇者様、ちょっくら手伝ってくんねえか?」

「はい!」

「勇者様、こっちも頼むべ!」

「はーい!」

「勇者は働き者だのぉ」

「はい……ってお前か! 悪いが今は忙しいんだ、またあとでな!」


 なぜ、絶対働きたくないでござる!! と言っていた勇者がこんなにも忙しくしているのかというと……。


 *   *   *


「すまないが、数日は近くの村で寝泊まりしてもらえるか?」

「え? 以前は王都に泊まれましたよね?」


 サファイアのおかげでほぼ焼け残ったものの、そのまま住む訳にはいかず、総司令官が家を新築すると聞いて勇者は王都でホテル暮らしすることを考えていた。


「あの時は制約魔法もなく、3日間だったからな。今回は半月ほど掛かりそうなのだ。制約魔法があってもバレにくく、魔王と察せる実力者がいない寝泊まりできる場所。という条件に当てはまるのがキサヤ村だったのだ」

「キサヤ村……。ちょうどここと王都の間あたりですね」

「そうだ。立地としても好条件だからな」

「半月ですか。今回は難しい工事なんですか?」

「大幅な増築が見込まれるからな」

「増築? 誰か他に住むんですか?」

「ルーシーの魔法講座用に教室を作るのだ」

「あー、ルーシーの教室を。……教室作るんですか!? ただでさえ私塾から睨まれてるんですよ!?」

「分かっている。サファイアから報告は受けている。今後は経済的余裕が無く、私塾に通えない子どもや就職活動のため魔法を習いたい者に限ることにした」

「国が魔王のために動いていいんですか?」

「ルーシーは倒すべき魔王ではあるが、今や人気の講師だ。優秀な魔法使いを国が守ることはなんら問題はない」


 アリストリア王国が魔王を優秀な魔法使いと認める日が来ようとは、神様もびっくりであろう。


「あの、ついでと言ってはなんですが、一つお願いしてもいいですか?」

「なんだ?」

「実は……」

「――ふむ。それくらいは大丈夫だ。手配しておこう」

「ありがとうございます!」

「では私は戻る。なにかあればサファイアに言うといい」

「サファイアに? トルマリンじゃないんですか?」

「サファイアは私の副官だ」

「総司令の副官!?」

「なんだ、知らなかったのか? まあいい。今後も期待しているぞ」

「はい!」


 *   *   *

 

「まさか12人の魔法使いであり総司令の副官だったなんてな」

「あれだけ有能な魔法使いだ。不思議はあるまい」

「まあな」


 燃え盛る家屋を一瞬で凍らせ、木をあっという間に机と椅子に変えてしまう。それも魔法陣は一切展開せずにである。

 12人の魔法使いのリーダー的存在であるというのも頷けた。


「それにしても疲れたなぁ」

「スローライフ勇者には良い運動ではないか?」

「なんだその売れない芸人みたいなあだ名は」

 

 村の手伝いが一段落した勇者とルーシーは芝に寝転んで空を見る。


「そういや、こんな時間久しぶりな気がするな」

「うむ。最近は魔法講座で忙しかったからな」

「そういや、教室作るらしいぞ」

「教室?」

「ルーシー魔法講座が人気なのは総司令官もご存知でな、いつまでもリビングでやるのは狭苦しいだろうし、本格的にやるのなら教室が必要だろうからって」

「教室……余の教室か」

「はは、このままいくと講座じゃなくてルーシー魔法学校になりそうだな」

「うむ! 良いなそれは!」

「え?」

「決めたぞ! ルーシー魔法講座は現在予約分で打ち切りだ! ルーシー魔法学校を開校する!」

「ちょ、ちょっと待てって落ち着け!」

「勇者が言い出したのではないか」

「そうだけど、学校になると一気に規模が大きくなりすぎる。いくら国王陛下の褒美があっても無限じゃないんだ。せめて私塾にしておけ」

「しかし私塾はまた睨まれるのではないか?」

「そこは総司令官が上手くやってくれてる。もうルーシーに危害が及ぶこともない」

「ふむ。ルーシー魔法私塾か。それはそれで悪くないな」


 大いに膨らんだ魔王の野望は、勇者の説得でなんとか中程度で留まった。


「とはいえ私塾となると運営資金を考えたほうがいいな」

「ぬ? 国王陛下の褒美があるではないか?」

「だから都合の良い時に陛下使うなって。俺たちだけなら30年は暮らせたし、講座の運営程度なら問題はなかった。それが私塾となると大人数をほぼ毎日相手することになる。アシルの料理にも資金が必要なんだ」

「ふむ……。つまり私塾にするにはやはり金を取る必要があるか」

「そうだな。それに、そうなると王都の私塾と変わらなくなる。ルーシーの理念とも乖離してしまう」

「うーむ、難しいものだな」


 教室を作ってもらえると聞いて野望が膨らんだルーシーであったが、人間社会の面倒な問題に突き当たり考え込む。


「まあ、ルーシーの野望は応援したいと思う。けど当面は魔法講座でいいんじゃないか?」

「そうだなー、よく考えたら今の講座でも余は手一杯だ。さらに多くの人間に毎日同じことをやれる自信は、さすがに無い」

「いくらなんでも一人じゃ物理的限界があるからな」

「うーむ、それにしても余の教室か。早く見てみたいのぉ」


 嬉しそうにするルーシーを見て、勇者もなんだか嬉しくなるのであった。

 そこへ、ふと影が落ちる。


「ん?」

「よう! 勇者殿!」

「アシル!」

「大変だったなー、不審火だって? 例のやつか?」

「ああ、恐らくな」

「勇者はアシルの不始末ではないかと疑っておった」

「うっさい!」

「俺の? あっははは! まあ、あの家で火を使うのは俺ぐらいだもんな、そう思っても仕方ねえよ。だが、俺はそんなヘマしねえからな」

「分かってるよ。今はもう疑ってない」

「分かってくれればいいさ。そしてルーシー嬢ちゃんには約束の品だ」

「おおおお!! フレンチトーストではないか!」

「作り直してくれたのか?」

「いや、これは自宅で作ってたものだ。だからしっかり染みてるぜ!」

「うむ! やはりアシルのフレンチトーストは絶品だ!」

「もう風邪引くんじゃねーぞ!」

「アシルは新居完成までどうするんだ?」

「俺は俺で宮廷料理人に戻るつもりだ」


 勇者はサファイアの話を思い出す。が、やはり伝えるべきではないと判断した。


「そっか、じゃあアシルの料理は半月ほどお預けか」

「さらにレベルアップしてくるから、覚悟しておけよ」

「ああ。楽しみにしてるよ」

「さらに美味いフレンチトーストだと!?」

「言ってねーよ!」

「ははは! ルーシー嬢ちゃんの期待にも応えられるよう、がんばるよ」


 ――こうしてアシルは一旦の離脱となり、勇者とルーシーはキサヤ村でお世話になることになったのである。



 To be continued→

最後まで読んで頂いてありがとうございます。

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