ルーシーの異変
――城内 謁見の間。
「ルビーが少しやんちゃしたようだな」
「はい。本人には厳重注意しておきました」
「まあ、ひと月以上も遠くから観察するだけではストレスが溜まるのも無理はない。そろそろ休暇を取らそう」
「しかし任務はいかが致しますか?」
「ふっふっふ。今の魔王――ルーシーであれば問題なかろう。もちろん奥の手は継続して準備するがな。それにそろそろ収穫祭も近かろう」
「では、6人交代で宜しいですか?」
「うむ。そうしてくれ」
「はっ」
* * *
「休暇?」
昼時、いつものように唐突に現れたトルマリンに驚いた勇者は、頭にチョップしてから話を聞く。
「ええ。今のルーシーは安定しているため危険性は極めて少なく、情報もかなり集まりました。が、実は情報の整理と分析がまだ全然終わってないんです。つまりデスクワークしながらの休暇ですね」
「それって休暇じゃないだろ」
「あはは。大丈夫ですよ、ちゃんと6人交代ですので」
「……ルビーはどうなった?」
あの騒動の後、ルビーの暴走とも取れる行動について、サファイアから勇者に謝罪の通信が入っていた。
「厳重注意処分となりました。大変ご迷惑をお掛けしました」
「いや。銃撃は迷惑だったけど、王命を受けていることを再認識させてもらったよ」
「王命? なんのことですか?」
「え? いや、ルーシーと一緒に暮らして弱点を探すっていう使命だよ」
「それは王命ではありませんよ」
「は?」
「王命とは、御璽による正式な要請によって初めて効力を発揮します。我ら12人の魔法使いには正式に王命の書簡が発布されていますが、勇者様のもとには届いていないでしょう?」
「そういえば……」
「ついでに言いますと、勇者様の魔王討伐も王命ではなく、国王陛下からよろしく頼むよ。と言われてるに過ぎません。ですので、勇者様は自由に暮らし、過ごしてください」
「そう……なのか」
ルビーに言われて気を引き締めなければと思っていた勇者は気が緩んだ。
「でも、ルビーはなんで嘘を?」
「ああ、それは勇者様に王命が下ったとルビーが勘違いしてただけですよ」
「なんだそりゃあ……」
俺がルーシーを守り抜く!! とカッコよく決意した意味はなんだったのか。
「うっせえ!」
「どうされました?」
「え? あれ? いや……なんでもない。そんじゃあ引き続きスローライフ満喫していいんだな?」
「はい。12人の魔法使いであるトルマリンが保証致します」
「よっしゃあ!! 言質取ったぞ!!」
「ですが、ルーシー様の弱点を見つけるという仕事はちゃんとやってくださいね」
「もちろんだ」
「ところでルーシー様は?」
「明日の講義の準備だ」
「忙しくされてますね。勇者様はお手伝いされないんですか?」
「俺は極力関わらないことにしてるんだよ」
「それはまたどうして?」
「俺は魔法に関しては初心者だ。設営は協力してるが、講義に関しては一切やってないよ」
「なるほど、ルーシー様が仕事に集中できるよう配慮なされているんですね」
「ふん」
そんなことを話していると、二階からガタンと大きな音が聞こえた。
「なにしてんだ?」
「勇者様、今のはもしや異変があったのでは?」
「まさか!?」
異変があるとしたらラルドが攻めてきたのでは、と考えた勇者は急いでルーシーの部屋に向かう。
「ルーシー!?」
ドアを叩いても返事がないため、勇者はドアを開ける。と、床に倒れたルーシーを発見する。
「ルーシー! 大丈夫か!? おい!!」
ぐったりしてる様子のルーシーを「失礼」とトルマリンが診る。
「……詳しく診察しないと分かりませんが、風邪でしょう」
「風邪?」
「ルーシー様が仰っていたでしょう? 体は人間の少女と大差はないと。ウィルスや細菌に感染しても不思議はありませんよ」
「そうか、防壁は弱い攻撃には弱い。ならウィルスや細菌の侵入は防げないってことか」
「ええ。とにかく医者を呼びましょう」
「大丈夫なのか? 魔王だぞ?」
「お任せください」
* * *
「……ふむ」
「どうですか、先生」
トルマリンが手配した宮廷医はルーシーを診ると、「疲れで体力が落ちて感染したんだろう。一般的な風邪だな。心配はない」と診断した。
「そうですか……」
よかった、と勇者は胸を撫で下ろす。
「それにしても……この子が魔王? 聞いてなきゃ実際診察しても年相応の女の子にしか思えんね」
「魔族は体が違うんですか?」
「ああ。研究のために何度か見たことがあるんだが、体の構成はかなり違う。だがこの子、ルーシーは人間となんら変わらん。本当に魔族なのだとしたら、かなり珍しい貴重な個体だよ」
「弱体化したことで体が変化したんでしょうか?」
「さあな、それは研究しないとなんとも言えんよ。じゃあ、薬は七日分置いておくから。お大事に」
「ありがとうございました」
医師を玄関で見送ると、ルーシーの部屋に戻って寝顔を見る。ベッドに寝かせるのと診察もあって、フードとマスクは外してある。目は閉じていて見えないが、煌めく金髪はやはり美しい。
「人間と変わらないか……」
ルーシーは以前、弱体化した体は人間の少女と大差ないと言っていたが、それでも人間とは違うだろうと勇者は思っていた。それが医師――それも宮廷医の見解でほぼ人間であると分かった。
「ルーシー、お前は一体何者なんだ?」
元・魔王であることは疑いようがなかった。勇者は実際に戦った感触でそれを確信していた。ということは、やはり秘術による影響であることは間違いない。
しかし、魔法を学び始めて日が浅い勇者には魔術など到底理解できなかった。トルマリンですら魔術は人間には早すぎると言っていたのだから当然である。
「……」
「ルーシー?」
ルーシーが何か喋った気がした勇者は口元に耳を近づける。
「……ゆぅ……しゃ」
「……ああ。ここにいるぞ」
自分の事を呼んでくれたのが少し嬉しくなる勇者だったが、次の言葉を聞いた瞬間、衝撃が走った。
「……アーヴ」
「――!?」
勇者は立ち上がると、フラフラとしながらルーシーの部屋を出る。
「なんで……ルーシーがその名を……」
To be continued→
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